2013年2月28日木曜日

20-24歳女性の1/4が使用経験/アメリカの緊急避妊に関する調査

アメリカの緊急避妊についての調査(Use of Emergency Contraception Among Women Aged 15–44: United States, 2006–2010 ウェッブ魚拓が開きます)を紹介します。
調査結果は4つのグラフになっていますので、
それぞれの表の要点を書いてみます。

Figure 1.
2006-2010年に行われた調査によると、15-44歳で性経験のある女性のうち緊急避妊の使用経験者は11%(580万人)でした。2002年の調査では、4%でした。
緊急避妊経験者の59%は1度だけ、24%は2度、17%は3度以上の使用経験がありました。
Figure 2.
年齢別に見ると、20-24歳の女性では23%の女性が使用経験を持っていました。
一方、30歳以上では5%でした。
学歴が高くなるほど使用率が高くなり、大学卒以上の女性では12%でした。
Figure 3.Figure 4.
①使用避妊法で避妊できていない心配②避妊していなかった③その他の選択肢から緊急避妊の使用理由をたずねると、①と②がほぼ同数になりました。
15-19歳では①が少なく②が多い傾向が見られました(34%対47%)。
学歴が高いほど①の比率が高く、学歴が低いほど②の比率が高い傾向が見られます。

経験者の累積カウントである点に注意が必要。
また、質問内容が各回調査で異なっていて、
カウントされていない緊急避妊もあります。
利用には注意が必要な調査ですが、
20-24歳の女性では約1/4が使用経験を持っている点に注目したいと思います。

2013年2月27日水曜日

もう一つのノルレボ物語(12)「適正使用」の代償

1.供給量

緊急避妊薬が店頭販売されているスイスでは、人口76人あたり1パックの販売量となっています。
緊急避妊薬が処方薬である韓国では、人口83人あたり1パックの販売量となっています。
その数値を日本の人口に当てはめると、それぞれ157万パック、144万パックとなります。
コンドーム避妊が主流の日本の必要需要は、400万パック程度と推測しています(参照)。
この数字を頭に置いて、あすか製薬の会見記事を読み直してみましょう。


あすか製薬の売上げ目標は20億円ですから、20万パック程度です。
日本と同じ処方箋販売の韓国と較べても、目標値が1/7に過ぎません。
「適正使用」という名の普及抑制政策で、
人口5000万人の韓国に遥かに及ばない1/7程度にしか普及しない、
とみているのです。
20万パックの売上げが目標ですが、
初年度の売上は5万パックに過ぎませんでした。
実に韓国の1/28の普及率です。
それでは、目標の20万パックが達成されたとき、
どれほどの妊娠中絶減少が見込めるのでしょうか。
服用者の妊娠(緊急避妊失敗)率を2%とすると、
20万パックで1万2千人の望まない妊娠を防ぐことができます。
20万パックでは、年間22万件の妊娠中絶を10%削減することもできないのです。
ノルレボへのアクセスを容易にすれば、
最大75%の削減が可能なのに、
「適正使用」を優先する政策がそれを不可能にしています。

2.効果
2つ目の問題は、避妊効果の問題です。
ノルレボの作用機序には不明な点があるにしても、
排卵抑制が重要な作用機序であることに異論はありません。
そうであるならば、より早い服用がより高い効果をもたらすことは論を待ちません。


ところが、現状のノルレボは週初めに処方が集中する傾向が見られます。
週末に避妊失敗があり週初に来院するケースが多いからです。
72時間以内であっても、より低い避妊効果しか得られないケースが多い実情があります。
ノルレボの価格は世界一高く、
その実際の避妊効果は世界一低いのが日本かもしれません。
こんな人を馬鹿にしたような話はありません。

3.ノルレボ弱者
ノルレボはアクセスしにくいようにわざと高い価格設定になっています。
高い価格設定にすると、誰でもアクセスしにくくなるわけではありません。
アクセスできなくなるのは誰でしょうか。
お金のない女性です。
10代の女性は概してお金のない女性です。
ノルレボの「適正使用」推進とは、
お金のない女性を緊急避妊の恩恵から排除することを意味します。
かつて、日本の家族計画運動はもっぱら既婚女性の避妊に関心を集中させ、
新たに生じていた未婚女性の避妊需要に目をつぶりました。
日本でピルが解禁されなかったのは、
弱者に目を配れなかった家族計画連盟による反対のためでした。
また、弱者切り捨ての歴史を繰り返すのでしょうか。

4.ノルレボ砂漠
ノルレボの「適正使用」推進では、実質上、産婦人科病院を指定する国家管理が行われています。
全ての産婦人科病院でノルレボが処方できるようになったとしても、
産婦人科病院の都市集中の問題があります。
人口過疎地域から産婦人科病院が消える傾向は現在も続いています。
郡部では産婦人科病院へのアクセス難が生じているのに、
産婦人科病院でしか処方できないとなれば緊急避妊の選択が困難になる女性が生じます。
さらに郡部の産婦人科医は、概して高齢化が進んでいます。
その中には、ノルレボ処方病院となるのに消極的な医師もいます。
ノルレボ処方病院は都市に集中する傾向が生じているように感じられます。
ノルレボの「適正使用」推進が、ノルレボ砂漠を生んでいることも大きな問題です。


「ピルとのつきあい方」は避妊を女性の権利と考えています。
権利は誰でも等しく享受できてはじめて権利と言えるものです。
この観点から見ると、ノルレボの「適正使用」推進は、
あるべき姿の逆方向を向いています。
人口300人の離島に住む女性でも緊急避妊にアクセスできる方策を考えるのが、
行政や家族計画協会の役割だと思います。
ノルレボの販売量が現在の100倍(500万パック)になれば、
妊娠中絶は劇的に減少するでしょう。

ノルレボの「適正使用」は女性の、とりわけ弱い立場の女性の犠牲を代償として成り立っています。

「適正使用」推進を唱えながら、「望まない妊娠をなくしたい」と言っても、
私はその言葉を信じません。

もう一つのノルレボ物語(1)に戻ります。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

2013年2月26日火曜日

もう一つのノルレボ物語(11)隠された情報

緊急避妊を日本の女性から取り上げ、
国家管理の下で限定的に利用させる「適正使用」政策にとって、
どうしても隠しておかなければならない不都合な事実が2つあります。
1つ目は、緊急避妊は早ければ早いほど効果的という事実です。
たとえば、アメリカ家庭医協会のサイト(英語)です。
無防備な性交渉から緊急避妊薬服用までの時間と妊娠率の関係が図示されています。
下の図も同様です。


一般に時間と妊娠率はサンプル数が多ければ多いほど、きれいな比例関係を示します。
大雑把に言えば、服用が24時間遅れると妊娠率は約2倍高くなります。
これは緊急避妊を必要とする女性にとって重要な事実です。

海外の緊急避妊薬の添付文書には、必ずと言ってよいほど、
「十分な避妊措置を講じない性交後、可及的速やかに、望ましくは12時間以内に遅くとも72 時間以内に本剤を2錠服用する」
などと書かれています(このことは発売前のノルレボ「添付文書案」にも出てきます)。
ところが、日本のノルレボの添付文書はあっさりしたものです。
【用法・用量】
性交後72時間以内にレボノルゲストレルとして1.5mgを1 回経口投与する.
<用法・用量に関連する使用上の注意>
本剤を投与する際には,できる限り速やかに服用するよう指導すること


ノルレボの添付文書は、「性交渉後」ではなく、
「処方後できるだけ早く服用するように指導する」と書いているように読めます。
無防備な性交渉から服用までの時間が早いほうがよいとは、
読めないように細工しているのです。
服用までの時間を問題にすると、ノルレボの処方施設を限定する政策の障害となります。
緊急避妊薬は「より早く」が意味を持つ薬です。
だから、各国では女性がより早くアクセスしやすいように、
店頭販売に変わっていったのです。
より手の届きにくいものにしようとしている日本で、
早く服用すればするほど効果が高いと言うことを秘密にしておく必要がありました。
しかし、そのことをいくら秘密にしても、
「72時間以内」と聞けば、72時間以内なら効果は同じなどと誰も思わないでしょう。
常識的に考えても、72時間以内なら効果は同じで、
72時間を過ぎるとぱったり効果がなくなるなどとは考えません。
ヤフー知恵袋に、
「アフターピルは72時間以内なら
いつ飲んでも効果は同じなんですか?」
との質問がなされています(ウェブ魚拓が開きます)。
この質問に自信満々に答えているのが親衛隊の幹部です。
72時間以内というくくりで臨床の結果を出しています。
性行為から何時間後なら何%などという論文も見たことがありませんよ。
>unya_unya_papaさん
どの医学雑誌でしょうか。
近年出された緊急避妊についての雑誌・文献は比較的チェック済みですが、
見落としているようであれば、ぜひ雑誌名を教えていただけますか?
著者だけでも結構です。
まさかどこかのHPの情報ですなんてことはないと思いますので、
文献名をいただければ購入したいと思います。
質問に答えるのではなく、
質問自体がナンセンスだと一蹴しています。
早く服用すればするほど効果が高いとの言説を必死で否定しているのです。

そのツイッターアカウントも、早いほうがよいとの認識が広がらないよう必死で防御線を張っています。
二つ目は、薬の譲渡の問題です。
自分の風邪をうつしてしまった旦那に自分が病院でもらった薬をあげると、
それは法律違反になるかという問題です。
この問題の答えは、「好ましいことではないが、法律違反にはならない」です。
意外に思われる方が多いかもしれません。
医薬品の個人的授与に関係する薬事法の条文は第24条です。
この条文には「業として」の限定があり、個人的な授与を対象としていません。
なお、同法第50条の規定は基準を満たさない医薬品の流通を禁じたもので、
個人的授与とは関係ない条文です。
これは法曹資格を持つ3人の友人の一致した意見なので間違いないと思います。
法的規制がないので、危険性を喚起して注意を呼びかけることが行われています。
参照世におもねる専門家はいらない / 行列のできる法律相談所 
ただ、ここにノルレボ「遠ざけ」政策の穴があります。
先に、家族計画協会は緊急避妊転用可能薬品から低用量ピルをこっそり除外した、
と書きました。
それは「遠ざけ」政策を強めれば強めるほど、
この「穴」が意味を持ってくる可能性があったからです。
「ピルとのつきあい方」の開設当時、
緊急避妊を知らない産婦人科医が多数でした。
当サイトをプリントアウトして病院に持参し、
やっと処方してもらえたケースもあります。
そのような事情を見て当サイトに以下の一文を付け加えました。

■いざというときにはお友達に
 ユーゴの内戦では、レイプ事件が多発しました。このユーゴでは、緊急避妊薬が相当の効果を上げたとも言われています。緊急避妊薬がこのような使われ方をするのは、涙が出るほど悲しくなります。日本では内戦はないと思います。しかし、低用量ピル・中用量ピルは高価なものではありませんから、いつも手元に置いておけば安心です。 
 緊急避妊法について知らないお友達に緊急事態が起きたときには、緊急避妊法のことを知らせて上げて下さい。緊急避妊法は24時間以内だと効果が高まります。病院で緊急避妊法のためにピルが処方してもらえないときには、ご自分で服用しているピルを分けて上げて下さい。他人にお薬をあげることは決して好ましいことではありません。しかし、たとえ法的に問題があっても、自己責任を前提にして道徳的には許されることだと思います。女性同士、悲しい思いをする方を少しでも少なくしていきましょう。

上に書いた3人のチェックは、この文章を付け加える際にお願いしたものです。
この文章では、病院に行くななど決して書いていません。
病院に行っても処方してもらえない場合には、自分のピルを上げると書いています。
このケースで責められるのは、緊急避妊の処方をしない病院ではないでしょうか?
病院が責められずに、
かえって譲渡した女性が責められる筋合いはないのではないか、
と思います。
ノルレボの「遠ざけ」政策が浸透すれば、
ノルレボにアクセスできない女性が生み出されます。
その時、緊急避妊を必要としている女性に自分のピルを渡す女性が責められるべきでしょうか、
それともノルレボへのアクセスを狭めた政策が責められるべきでしょうか。
ノルレボにアクセスできない女性を生み出す政策こそ責められるべきだと考えます。

私はこのように考えるのですが、
親衛隊の考えは全く異なります。
彼女たちによると、
ノルレボ「遠ざけ」政策の邪魔をする「ピルとのつきあい方」が悪者となります。
こちらが親衛隊のネット工作です (ウェッブ魚拓が開きます)。
なお、質問投稿時間と各回答の投稿時間は以下の通りです。
質問日時:2011/12/31 09:14:59
回答日時:2011/12/31 09:20:30
回答日時:2011/12/31 09:20:36
回答日時:2011/12/31 09:21:28
質問を探し、読み、書いて、投稿するのに5分。
3つの回答の投稿時間は60秒以内。
偶然なのでしょう。

農民が刀を持つのは違法だとして、農民から刀を取り上げるのが刀狩り政策でした。
刀狩り政策が農民の反抗を封じ込める政策であったことは言うまでもありません。

もう一つのノルレボ物語(12)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

もう一つのノルレボ物語(10)親鸞は弟子一人ももたず

親鸞は弟子一人ももたずそうろう

浄土真宗を開いた親鸞は「自分は弟子を一人も持たない」と語ります(『歎異抄』)。
その正確な意味については解説ページがありますので、
詳しく書きません。
マホメットにも、カルビンにも同様な思想が見られます。
神(仏)の力が偉大であれば、
人間同士の関係がフラットになるのは理解できるところです。

ん?なんでそれが緊急避妊やノルレボの話しと関係あるんだ?

と疑問に思われるだろう、
簡単に理解してもらえないだろうと、
私も思います。
ツイッターでは、しばしば福澤諭吉についてつぶやいています。
諭吉もピルとは関係なさそうですが、
私の中では親鸞・諭吉・ピルは繋がります。
このことについては、おいおい書いていきたいと思いますが、
ひと言で言えばピルの受容と精神的風土は密接に関係しているとの見方です。
プロテスタンティズムの精神とピル。
それが私のピル発見の原点でもあるのです。
私から見ると、
日本のピルは神なき国のピル
にみえるのです。

話を少しずつ本題に戻します。
ノルレボは、日本の中絶を1/4に減少させる可能性を持っています。
1/4削減ではなく1/4にすることができるのです。
大げさな言い方をすると、女性にとって神様のような薬です。
その恩恵を全ての女性が受けれるようにしたい。
私は緊急避妊をこのように語ります。
このように語る私は一人の「凡夫」であり、
「同朋」に語っているのです。
語る人ではなく、偉大なのはノルレボだからです。

一方、神の代理人がいることがあります。
カソリックで教会は神の代理人であり、
代理人は権威を持ちます。
日本は神なき国なので、代理人の権威はもっと大きくなります。
ノルレボについて言えば、代理人は厚労省だったり家族計画協会だったりします。
緊急避妊の代理人には、代理人の事情があるのでしょう。
代理人が代理人の事情で緊急避妊について語っていることは、
次回のエントリーで書くことにします。

神には親衛隊がつきません。
「凡夫」には一人の弟子もいません。
ところが、神の代理人には親衛隊がつきます。
これもお決まりです。
家族計画協会は「OC for me」キャンペーン以来、
親衛隊作りに取り組んできました。
その流れの中で低用量ピル普及推進委員会が作られました。
いわば官製ユーザー組織であり、親衛隊です。
親衛隊の身上は忠誠です。
ピル処方時の検査に5万円かかろうと、
どのような問題があろうと、
問題点については何も語らず、ひたすらバラ色のピル生活を語ります。
もちろん、ノルレボの持つ問題について発言することもありません。
緊急避妊薬の「遠ざけ」政策に協力しながら、
ピルユーザーの反発を封殺する役割を果たします。
このようにして、代理人を中心とした行政・メーカー・学会・病院
そしてユーザーまでまきこんだ共同体が出来上がります。
これは緊急避妊薬に限ったことではなく、
日本の保守主義の源泉であるように思われます。

親鸞は弟子一人ももたずそうろう

白衣の神父を見るにつけ想い出す言葉です。
ノルレボの代理人である白衣の神父は、
神(ノルレボ)の何を語り何を語らなかったのでしょうか。

もう一つのノルレボ物語(11)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

2013年2月25日月曜日

もう一つのノルレボ物語(9)良心的医師の悲鳴

医師の書いているブログを2つ紹介しましょう。

一つ目。
避妊の教育はしない、緊急の事態が起こっても、病院に行って緊急の避妊薬をもらおうにも、とても高くてお金がない、そんな若者をどう救えばいいのでしょう。
 イギリスでは、基本は「教育」。それを補完するものとして、ピルの提供や緊急避妊の薬も手に入りやすくする。日本は全く逆なのです。教育はしてはいけない、緊急の事態が起こっても、手に入りにくくする。
http://miyoko-diary.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-fd90.html


二つ目。
緊急避妊薬をOTCとしていいかどうかは議論のあるところだろうが、それにしても驚くのはその価格。なんと1回分(2錠)で1万円という価格設定がなされている。これは医療機関への納入価格だから、実際に患者が病院で支払う金額は1万3千~1万5千円程度になるだろう。これは諸外国と比べて破格の高値である。
************
病院に行かなければ手に入れることが出来ない、しかも高価格。かなり敷居の高い薬にされてしまっている。これらは全て厚労省が決めることなので、我々には如何ともし難いが、もう少し何とかならなかったのだろうか?
******************
この極めて高い価格は、薬事行政側が敢えて敷居を高くする目的で設定したものと考えざるを得ない。その背後には、「こんな薬を気軽に入手できるようになったら、性のモラルが乱れるのじゃないか」といった思惑があるのだろう。しかしこれは余計なお世話であって、ある意味女性を蔑視した考えとすら思える。

緊急避妊薬の最大のメリットは人工妊娠中絶を減らせられるところにある。中絶が女性の体に与えるリスクに比べれば、薬のリスクなどほとんど無いに等しい。何よりも、生命を握りつぶす中絶行為が回避できることは女性にとっても我々にとっても救いである。
http://plaza.rakuten.co.jp/bbcozy/diary/201106060000/?scid=we_blg_tw01


上には2つのブログを紹介しました。
この2つ以外にもノルレボ政策の理不尽を指摘する医師がいます。
しかし、「適正化」路線推進側にとって、それは想定内のことでしょう。
不満があっても従わざるを得ない、
と見くびられています。
2番目のブログでは「女性を蔑視した考えとすら思える」と指摘されています。
もっともな指摘なのですが、日本の高尚なフェミニズムはこのような問題に多分関心がありません。
日本はお上が好き勝手できる国なのです。
ただ、以前と少しだけ変わった点があります。
ごく少数ですが、日本にはピルユーザーが生まれています。
ピルユーザーから反発の声が上がる可能性がありました。
しかし、・・・

もう一つのノルレボ物語(10)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償

もう一つのノルレボ物語(8)乱用幻想のプロパガンダ

緊急避妊の「適正使用」の本質は、緊急避妊の抑制であり、
緊急避妊の普及阻止にほかなりません。
そのために、低用量ピルの緊急避妊への転用を秘密にし、
中用量ピルの転用を排除し、
ノルレボの価格を異常に高くし、
処方病院を限定する政策(実質登録制)が取られたのです。
世界では望まない妊娠をなくしたいと願う医師と女性が、
緊急避妊薬へのアクセスを容易にするように取り組み、
薬局での処方箋なし販売が多くの国で実現しています。
こともあろうに日本では、
世界の動きに逆行する政策が取られています。
この緊急避妊抑制策に良心的医師が疑問を感じるのは、
当然のことです。
良心的医師に対して「緊急避妊の抑制」を説得することは、
至難といわねばなりません。
どのように「説得」が行われているのでしょうか。

「すこしでも人工妊娠中絶術をおこさなくてもいいように、
望まない妊娠がせいりつしないように、と願い、
ノルレボをより積極的に導入することとしました。」
という良心的医師のブログ(ウェブ魚拓が開きます)を見てみましょう。
「ノルレボを中心とした、緊急避妊法についての講習会」に出席し、
「ノルレボをより積極的に導入」することにした経緯が書かれています。

韓国での話も衝撃的でした。
韓国では、緊急避妊薬を、一般薬として薬局で購入できるようにした結果、
ピルに比べ、緊急避妊薬が広く普及し、
結果としてピルによる避妊ではなくては、緊急避妊薬による避妊という概念が広まってしまった、と。
その結果として予想されるのは、中絶の件数が増えるという皮肉な結果となります。
http://megalodon.jp/2013-0225-1055-11/blog.m3.com/GREEN-HILL/20120801/1

良心的医師に対して緊急避妊抑制の必要を説得するには、
緊急避妊が普及するとかえって望まない妊娠が増える、
と宣伝するのがもっとも効果的です。
そこで韓国の事例が紹介されます。
韓国の事例を聞いて、この良心的医師は衝撃を受けているのです。
しかし、この韓国の話は架空の作り話に過ぎません。
まず、韓国で緊急避妊薬が薬局で購入できるという事実はありません。
韓国で緊急避妊薬は病院だけで処方される処方薬です。
2012年6月7日、韓国当局は処方薬である緊急避妊薬をOTCスイッチとする案(韓国語)を公表しました。
それに対して産婦人科医の団体が反対し、緊急避妊薬の薬店販売は実現していません。
講習会の話は、事実関係を全く逆にした作り話なのです。
韓国では緊急避妊薬の薬店販売はまだ実現していませんが、
韓国当局は薬店販売に転換させようとしています。
韓国だけでなく各国当局が緊急避妊薬の店頭販売転換の方針をとっているのはなぜでしょう。
講習会の話の通りだとすると、
各国政府は中絶件数を増やすために緊急避妊を普及させようとしていることになります。
講習会の話は、いくら何でもあり得ないトンデモ話なのです。

緊急避妊が普及すると望まない妊娠が増えるなど、
全くのインチキ話であることはスイスを見ればわかります。
スイスは緊急避妊薬をいち早く店頭販売とした国です。
そのスイスの事情について「中絶率が低いスイス その理由を探る」(ウェブ魚拓が開きます)という記事を紹介しましょう。

2011年には、妊娠可能年齢の女性(15~44歳)1000人に対し6.8人が中絶した。
これは、イギリスの2011年度の17.5人、フランスの2009年度の15人、アメリカの2008年度の16人などに比べ、極端に少ない。
***********************************
モーニングアフターピル
性行為の後で妊娠を回避するために飲むピル「モーニングアフターピル(緊急避妊薬)」は、前述の2002年の改正法以降、医師の処方箋がなくても入手できるようになった。
このピルの自由化は、避妊においてかなり重要な役割を果たすようになった。
スイスでは年間、10万パックが販売されていると医薬品産業界は発表している。

緊急避妊が普及すると中絶が増えるなどの戯言を言っているのは、
韓国の一部の産婦人科医と日本の産婦人科医だけです。
以下は緊急避妊に関する研究の最新レビュー(英文)です。

Published evidence would seem to demonstrate convincingly that making ECPs more widely available does not increase risk-taking or adversely affect regular contraceptive use.
124,125,126,127,128,129,130,131,132,133,134,135,136,137,138,139,140
公表されているエビデンスは、緊急避妊の利用環境の改善によって危険な性交渉が増加することはないし、通常の避妊法の使用に悪影響をもたらすことはないことを明確に示しているように見える。

上記の124から140は文献番号です。
世界的な権威者と数多くのエビデンスを向こうに回して
独自の見解を広めているのが我が日本の産婦人科医です。
しかし、何のエビデンスもない妄想なので、
韓国の作り話を持ち出しているのです。

もう一つのノルレボ物語(9)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償


2013年2月24日日曜日

もう一つのノルレボ物語(7)奇妙な親切

「ピルとのつきあい方」が緊急避妊法を紹介し、
緊急避妊ブームとも言える現象が生じたと書きました。
当時、緊急避妊法の具体的な方法を知っている医師は、
100人に1人いるかいないかだったでしょう。
緊急避妊を必要としている女性が病院に駆けつけると、
「緊急避妊?そんなものはやってない」
と追い返されるケースが続出しました。
何とか対応してくれる病院探しが大変だったのです。
このようなニーズに応えて、
緊急避妊可能な病院リストがさまざまなサイトで作られました。
このような動きを知ってか知らずにか、
家族計画協会が緊急避妊のできる病院を紹介するサービスを始めました。
このサービスは女性の緊急避妊へのアクセスをサポートする有意義なサービスでした。
このサービスについて、高く評価したいと思います。
当サイトでも、そのサービスを紹介していた時期があります。
しかし、途中で家族計画協会のサービスを紹介するのはやめました。
個々の病院がサイトを開設し、緊急避妊への対応を料金付きで明示するようになったのが大きな理由です。
もう一つ理由があるとすれば、
家族計画協会紹介の病院の料金は決まって高い、
と掲示板でささやかれていたからです。
現在は、充実した病院検索サイトがいくつかあります。
病院検索サイトには地域ごとに診療科ごとに病院が網羅的に掲載されています。
多くの産婦人科で緊急避妊に対応するようになっていますから、
近くの産婦人科に電話で問い合わせればすむようになりました。
このような状況になっているのに、
なぜか家族計画協会は親切な病院紹介サービスに力を入れています。
日本家族計画協会クリニックは、同協会付属の病院です。
同病院サイトの目玉に、
Dr.北村が推奨する緊急避妊薬を処方している施設検索
http://www.jfpa-clinic.org/search/ec-search.php
があります。
この施設検索は必ずしも網羅的ではありません。
たとえば、帯広市の女性が検索すると直近の病院まで110キロ以上あります。
まだ、充実途上なのだとも考えられます。
しかし、ある疑念を抱かざるを得ないのです。
というのは、家族計画協会は今は一般社団法人ですが、
公益性のある団体と多くの人が思っています。
そのような団体のサイトが「Dr.北村が推奨する」とうたうのはいかがなものでしょうか。
緊急避妊薬を処方している病院の内から、
選別して推奨するとうたっているわけですから。
市町村のサイトには当番医が網羅的に示されています。
その市町村のサイトに「推奨当番医」として一部の病院だけ掲載することはあり得るでしょうか。
だから、奇妙なサービスに見えるのです。

もちろん、奇妙なサービスでもないよりあった方がましなサービスもあります。
しかし、おそらくそのような理由で緊急避妊薬を処方している施設検索サービスを提供しているのではないでしょう。
以下はあすか製薬の会見内容を報じる記事です。



「納入施設の限定はしないものの、関係学会と話しあいながら、
むやみな処方がされないようにしたい考え。
処方医療機関の情報提供については今後学会と詰めるという」

と書かれています。
つまり、「適正使用」に協力する病院にだけしかノルレボは納入しない、
ノルレボ取扱病院については何らかの方法で情報提供すると書かれているのです。
これを受けて、「Dr.北村が推奨する緊急避妊薬を処方している施設検索」が
作動しているのです。
医薬品は必要な人に分け隔てなく供給されるべきものです。
国の方針に従わない病院には供給しない、
などが許されてよいわけがありません。
緊急避妊からの「遠ざけ」政策は、
緊急避妊を必要とする女性から緊急避妊薬を取り上げる
非人道的な政策といわねばなりません。

もう一つのノルレボ物語(8)に続きます。


2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償


2013年2月23日土曜日

もう一つのノルレボ物語(6)ノルレボ高価格の舞台裏

通常ピルの緊急避妊薬転用叩きは、
ノルレボの価格の異常に高い価格設定に原因があると書きました。
その価格設定がどれほど異常なのか見てみましょう。
下はノルレボタイプの緊急避妊薬の価格を示したものです。


表は2012年1月に調べたもので為替レートも当時のレートで計算しています。
ノルレボの処方価格には大きな差がありますが、
多くは15000円前後に集中しています。
先進国の緊急避妊薬相場はおよそ3000円程度です。
それぞれの国の低用量ピル1シートの価格と同じかやや高めという値段です。
15000円という価格がいかに異常価格かわかると思います。

26ポンドを今日のレートで円換算してみると、3,682円でした。
ノルレボの価格が異常なのがわかるでしょう。
では、ノルレボの価格はどうしてこのように異常なのでしょうか。
その理由は病院納入価格が高いからです。
ノルレボの病院納入価格は1万円弱です。
病院納入価格が他の先進国の小売価格の3倍なのですから、
お話になりません。
以下は、この価格設定についてのあすか製薬の説明です。


高い価格設定にしたのは、医師の意見があったからだと述べています。
あすか製薬に対して価格設定の意見を言える医師は、ごく少数です。
なお、この記事で「希望小売価格」となっているのは、納入価格の誤りでしょう。
記者が小売価格と勘違いしてしまうほど、1万円の納入価格などあり得ない値段です。

納入価格が高いだけではありません。
以下はある病院のサイトです。
ノルレボの価格設定について、「さまざまな通達も鑑み」決めたと書かれています。


 
病院での価格まで統制されているのがわかります。
ノルレボの価格は女性の手に届きにくいものにするために、
わざわざ高く設定しその高い価格を統制している人がいるのです。

以下、2014.1.13追記
(参考)ヨーロッパ諸国におけるノルレボタイプ緊急避妊薬の費用
(単位ユーロ:2014年1月現在1ユーロ=約141.5円)
3000円(21.2ユーロ)を越えるのはクロアチア、ノルウェー、スイスの3カ国、イギリスやフランスは1000円(7.06ユーロ)以下。
アルバニア    4-6
オーストリア  12.65
ベルギー     9.85
ブルガリア   14.00
クロアチア   26.00
キプロス    10.74
デンマーク   11.67
エストニア   15.79
フィンランド  18.87
フランス     6.75
ドイツ     17.00
ハンガリー   17.93
アイルランド  40.47(払い戻し後6.01ユーロ)、
イタリア    13.10 
ラトビア    14.59 
オランダ    15.00 
ノルウェイ   26.5 
ポーランド   11.58 
ポルトガル   11.91-12.85 
ルーマニア   20.00 
スロベニア   14.00 
スペイン    19.00 
スウェーデン  17.00
スイス     32.34
トルコ      6.64
イギリス     6.97
(出所 European Consortium for Emergency Contraception (ECEC) 2014.1.13)


もう一つのノルレボ物語(7)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
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ソフィア狩り
プラノバール潰し
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もう一つのノルレボ物語(5)プラノバール潰し

緊急避妊を国家管理下に置くための第1弾が低用量ピル外しで、
第2弾がソフィア狩りでした。
ノルレボの発売後には、いよいよ最終第3弾のプラノバール潰しが始まります。
プラノバール潰しについてみていく前に、
まず確認しておきたいことがあります。
ノルレボタイプの緊急避妊薬が市場に現れると、
合剤タイプの緊急避妊専用薬はどこの国でもまたたく間に市場から淘汰されます。
ノルレボタイプの緊急避妊薬であるPLAN-Bが認可されると、
PREVENはまたたく間に市場から淘汰されました。
それはノルレボタイプの緊急避妊薬が、
副作用のほとんどない優れた緊急避妊薬だからです。
日本でもノルレボの価格が適正価格であれば、
プラノバール潰しなどしなくても、
またたくまに市場に広がるでしょう。
言い換えれば、ノルレボが政治価格となっているので、
プラノバール潰しが必要なだけの話です。

ごく大雑把にいうと1度の避妊失敗があると、100人中8人が妊娠します。
100人中8人を100人中2人にするのが緊急避妊薬です。
現在、年間30万件の避妊失敗などによる予期せぬ妊娠があり、
その2/3の20万件が中絶を選択しているとします。
この数字を元にすると年間375万件の避妊失敗があり、
その内30万件が妊娠し、そのうちの20万件が中絶を選択していることになります。
緊急避妊の潜在需要は年間約400万件なので、
サイトには「400万人の緊急避妊法」とタイトルをつけています。
400万人が緊急避妊にアクセスできるようにしたい。
これが「ピルとのつきあい方」の考えです。
そのためには、緊急避妊の間口を広げる必要があると考えます。
多くの国で緊急避妊薬は薬局で処方箋なしに買える薬です。
ところが、この10年間の動きは間口を狭め、
緊急避妊を女性から「遠ざける」政策でした。
限られた病院で高い価格でノルレボを処方するようにすれば、
「遠ざけ」政策は完成します。
この「遠ざけ」政策の障害は、中用量ピルの緊急避妊薬への転用です。
中用量ピルの緊急避妊薬への転用をなくさなくては、
「遠ざけ」政策は完成しません。
そこで、中用量ピルの緊急避妊薬への転用に圧力がかけられることになります。
その一端は以下の記事で見ることができます。


中用量ピルの転用を続ける病院があるのは、
ただ一つの理由です。
ノルレボの価格が高すぎる。
ノルレボの高すぎる価格では救えない女性がいるから、
良心的な病院が中用量ピルの転用を続けているのです。
圧力をかけ警告するのではなく、
ノルレボの価格を適正価格にすればすむことなのです。

もう一つのノルレボ物語(6)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
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やはり、堕胎罪廃止に異議あり

以前、ツイートを「フェミニスト総賛成の堕胎罪廃止に異議あり、な理由」にまとめました。
詳しくは上記のまとめを見ていただきたいのですが、
自己堕胎罪の廃止は堕胎幇助罪の新設とセットでなくてはならないと論じました。
堕胎罪の廃止が自己目的化しているのではないか、
堕胎罪の問題は女性の性の権利をいかに前進させるかという観点で考えるべきではないか、
と私は考えました。
ただ単に堕胎罪を廃止して堕胎を自由化しても、
安全な堕胎の権利が失われては意味がありません。
上記のまとめをご覧になっているはずのある研究者の方が、
最近ブログに以下のような記事を書いていました。

この一文がある限り、中絶薬を自前で(海外サイトなどから個人輸入などして)入手するなどして
自分の妊娠を中絶する行為は「(非合法の)堕胎」として刑罰の対象になるわけです。
もちろん、正しい知識もないままに自分勝手に中絶薬を使ってはなりませんが、
妊娠を確認し、ちゃんとした薬を適切な方法で服用する「自己中絶」については許可していくべきではないでしょうか。


中絶薬を個人輸入して自己中絶することが許されるようにすべきだという主張です。
堕胎罪の廃止が自己目的化しているから、
このような主張になるのではないかと思います。
中絶薬は多くの国で認可されていますが、
「自己中絶」に利用されている国は基本的にありません。
医師等の管理下で使用されているから、
重大な事故が防げています。
「自己中絶」に利用されれば、
適応期限外の使用が頻発し重大事故が発生する恐れがあります。
この不利益を考えれば中絶薬の自己使用は制限されて当然です。
我が国で中絶薬が認可されていない現状は、変えていく必要があります。
中絶薬の個人輸入を自由化すれば、
中絶薬の認可を促進することになるでしょう。
しかし、個人輸入は犠牲をともなうものであってはなりません。
自己中絶罪の廃止が中絶薬の個人輸入の自由化に直結することは、
紹介したブログが示すところです。
個人輸入はサンガー以来、性の権利の前進のために使用される武器でした。
ピル反対派によるマーベロン規制策動を吹き飛ばしたのも、
個人輸入という武器でした。
緊急避妊の「遠ざけ」政策を個人輸入で吹き飛ばすこともできるでしょう。
しかし、重要なことは日本の性の権利の環境を改善することです。
あくまで個人輸入はそのための武器です。
緊急避妊の「遠ざけ」政策を改善していくのに個人輸入の武器を発動すべきか、
中絶薬の認可に個人輸入の武器を発動すべきか、
よくよく考える必要のある問題だと思います。
中絶薬の個人輸入については、いかなる状況においても私は反対です。
緊急避妊薬については、現状において私は慎重です。

2013年2月22日金曜日

もう一つのノルレボ物語(4)ソフィア狩り

 
日本の女性から緊急避妊を「遠ざける」第1弾は、
緊急避妊転用薬剤から低用量ピル外しを行うことでした。
これは合理的根拠がありません。
 


「遠ざけ」政策の第2弾は、ソフィア狩りでした。
ソフィアは第1世代の黄体ホルモンが使用されています。
第1世代ピルの緊急避妊薬転用は、悩ましい問題です。
第1世代ピルの黄体ホルモン活性は低く、
エストロゲン優位のピルとなっています。
第1世代ピルが緊急避妊に適したピルとは言えません。
欧米で緊急避妊法が爆発的に普及した1990年代、
欧米では第1世代ピルのシェアは低くなっており、
わざわざ第1世代ピルを緊急避妊に転用する必要がありませんでした。
ところが、日本の中用量ピルの中でソフィアなど第1世代ピルは、
大きな比重を占めていました。
また、低用量ピルの中でも、第1世代ピルが相当な割合を占めていました。
このような事情を考慮して、
「ピルとのつきあい方」では第1世代低用量ピルの緊急避妊薬転用の方法を示すと同時に、
「お勧めではない」と注記しました。
また、第1世代を含む中用量ピルについては、
「例示」としました。
中用量ピルとしてソフィアのみを採用している病院はざらにあります。
緊急避妊を必要とする女性が病院に駆けつけ、
ソフィアしかないからといって門前払いをされるのを避けたかったからです。
実際に、10年間の間、日本では第1世代ピルのソフィアが、
数多く緊急避妊に使用されました。
その数は恐らく20万件を下らないでしょう。
その経験からソフィアを用いた緊急避妊に効果がない、
などといえないことは明かです。
ところが、ノルレボの発売開始をひかえた2010年6月、
北村邦夫氏は「ECとしてノルエチステロンが適さない理由」を指摘し、
以下のように書きました。

「医師の判断と責任」によってすでにEC以外の適応で承認されている薬剤が転用されてきた。
これがプラノバール配合錠やドオルトン錠であったのだが,
中用量ピル(表2)であればECとして使用できると誤解している婦人科医がおり、
ソフィアA,ソフイアCなどをプラノパール配合錠と同様の用法で処方されることから,
インターネットなどで情報を得ている女性の間で不安が広がっている。

「緊急避妊法とプロゲスチン」(HORMON EFRONTIER lN GYNECOLOGY, VOL.17. No.2.,2010.6)

第1世代ピルが緊急避妊に適さないという見解自体は、
あり得る見解です。
上に引用した文章で注意したいのは、
「インターネットなどで情報を得ている女性の間で不安が広がっている」
という一文です。
医師が緊急避妊薬として処方しているソフィアに対して、
一般女性がソフィアを第1世代ピルと知っていて、
緊急避妊薬としての転用に不安を感じることがあるでしょうか。
そのような事実は恐らくなかったでしょう。
ただ、その後の経過を見ると「不安が広がっている」ではなく、
「不安が広がるでしょう」と意味なのがわかります。
2010年6月以後、ヤフー知恵袋では「ソフィア狩り」が始まります。
その一例はこちらです。
低用量ピル普及推進委員会の関係者2名がタックを組んで、
「ソフィア狩り」を行っています。

第1世代ピルの緊急避妊薬転用の是非については、
どちらも一理あります。
悩ましい問題ではあるのですが、
ケースバイケースの問題ではないかと考えます。
プラノバールが使えるならその方がよいし、
ノルレボが使えるならその方がもっとよいでしょう。
しかし、プラノバールを探し、ノルレボを探し回るのに時間を費やすよりは、
ソフィアの選択肢がある方がよいと考えます。
ソフィア狩りを行い、ソフィアによる緊急避妊をなくすことが、
女性の利益になるのか疑問に思います。

もう一つのノルレボ物語(5)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩
ソフィア狩り
プラノバール潰し
ノルレボ高価格の舞台裏
奇妙な親切
乱用幻想のプロパガンダ
良心的医師の悲鳴
親鸞は弟子一人ももたず
隠された情報
「適正使用」の代償



サイトビジター

 
サイトのビジター国別表記
ほぼ世界中に日本人がいるということなのね。
感激した。
 

2013年2月21日木曜日

もう一つのノルレボ物語(3)「適正使用」路線の第一歩

低用量ピルの除外

年間30万件の中絶を8万弱に激減できる妙策が緊急避妊です。
中絶が減少して困る女性は一人もいません。
ところが、中絶が減少すると困る人もいるのかもしれません。
もし中絶減少反対の人がいても、
中絶減少反対とはいくら何でも言えないのです。
そこで緊急避妊反対の人達が考えついたのが、
緊急避妊薬の名ばかり解禁でした。
緊急避妊薬を認可するけれども、
手の届きにくいものにしてしまおうという策です。
手の届きにくいものにするというと聞こえが悪いので、
「適正使用」という美しい言葉にしました。
かつて、日本医師会も助産婦会も家族計画連盟もピルの解禁に反対でした。
国民の健康と安全を守るという口実でしたが、
その間に数百万件に上る中絶が行われました。
数百万件に上る中絶を犠牲にして、
どのような健康と安全が守られたのでしょうか。
第1類、第2類医薬品のネット販売禁止なども似たような話です。
国民の健康と安全を守るという口実が口実に過ぎないことは明らかでしょう。
女性の緊急避妊利用を遠ざける究極の政策がノルレボの認可でした。
ノルレボ認可に至る「遠ざけ政策」を見ていくことにしましょう。

当サイトが緊急避妊法を紹介するに際して、
ピルの種類と用量を表にまとめました。
当然低用量ピルも中用量ピルも含まれています。
一方、当サイトより10年後に書かれた北村邦夫氏の2010年の論文、
「緊急避妊法とプロゲスチン」(HORMON EFRONTIER lN GYNECOLOGY, VOL.17. No.2.,2010.6)でも低用量ピルと中用量ピルが表になっています。
 
 
第1世代ピルを表内に載せるか、表外の注とするかの違いはありますが、
「ピルとのつきあい方」と北村論文の内容は同じです。
北村氏は低用量ピルが緊急避妊に使用できると学術論文では明確に書いています。
この北村論文より10年ほど前、家族計画協会のサイトには以下のような記述が見られました。

 


緊急避妊について、「その後72時間以内に中用量ピルを2錠(低用量ピルで代用する場合は4錠)、さらに12時間後に2錠(同4錠)服用するのがピルによる緊急避妊法」と書かれています。
10年後の学術論文と同じ内容です。

中用量ピル4錠の薬価は60円程度、低用量ピル1シートの価格は当時3000円程度でした。
多くても3000円程度もあれば誰でも緊急避妊ができる状況でした。
それで30万件の中絶が8万件になるのなら、喜ばしいことだと私は思います。
しかし、それが喜ばしくないなら、女性から緊急避妊を「遠ざける」必要があります。
そこで、緊急避妊をベールに包まれた秘密の方法にすることが考えられます。
下は、家族計画協会の「あなたに知っていて欲しい緊急避妊のこと」というページです。


もう、具体的な使い方は記されていません。そして、わざわざ「特殊な使われ方」を強調しています。
一方、家族計画協会の機関誌「家族と健康」第572号(2001.11発行)には、「緊急避妊を知るために(一般的な質問に答える) 」を掲載し、
サイトにもその内容を掲載しました。

 


この記述からは低用量ピルが消えて、プラノバールとドオルトンの2つの中用量ピルが緊急避妊に使えるとされています。
以後、10年近くの間、低用量ピルが緊急避妊に使用できることは、
秘密とされてしまいました。
緊急避妊に使用できるピルが、プラノバールとドオルトンの2つの中用量ピルだけだと言うことにしておけば、
女性が手持ちの低用量ピルで「勝手に」緊急避妊すること防ぐことができます。
さらには、緊急避妊用の「秘密の薬」は、いくらでも高い価格にできました。

もう一つのノルレボ物語(4)に続きます。

2000年に起きた異変
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もう一つのノルレボ物語(2)緊急避妊フィーバー

2000年を境とする若年女性の中絶率低下について書きました。
そして、それが緊急避妊効果と推測できると指摘しました。
日本に突如として緊急避妊ブームが訪れたといってよいでしょう。
以下は2000年の様子を伝える家族計画協会機関誌です。
同誌は、「緊急避妊に占領されたホットライン」との見出しでその様子を記しています(「思春期電話相談報告書」)。
 


Dr..北村のJFPAクリニックはその内実について以下のように記しています。
2000年4月から開設した『ピルダイヤル』に寄せられた電話相談から、ピルについての最新情報をお届けしよう。ピルダイヤル利用者の年齢は20歳から24歳がもっとも多く(32.2%)、20歳代での利用が5割を超えているが、19歳以下の若者たちからの相談も多い(10.1%)。01年度から『ピルダイヤル』に緊急避妊相談を加えたこともあり、『その他』が65%と高くなっている。その結果、相談内容を詳細に見てみると、「緊急避妊」に関する相談が53.7%と他を圧倒
ここで注目したいことは、「20歳から24歳がもっとも多く(32.2%)」とある点です。
中絶率の増加に最初に歯止めがかかったのは、まさにこの年齢層でした。
この年齢層を中心に緊急避妊情報が広がったことを裏付けています。

それではこの突然の緊急避妊ブームは何がきっかけだったのでしょう。
日本家族計画協会のサイト(http://www.jfpa.or.jp/)が開設されたのは2001年のことです。
2001年10月21日のアクセスカウンターは4193となっていました。
(ちなみに当時の当サイト1日アクセス数は1500程度でした)
開設当初の同サイトには、「あなたに知っていて欲しい緊急避妊のこと」(http://www.jfpa.or.jp/07-kinkyu/main.html現在はリンク切れ)とのページがありました。
しかし、時系列で考えれば同ページが緊急避妊の火付け役でないことは明かです。
2000年時点で日本語の緊急避妊情報は、
当サイト「いざというときの緊急避妊法」が唯一といってよい状態だったと思います。
同ページでは、日本にある中用量ピルや低用量ピルで緊急避妊ができるとの情報を伝えました。
緊急避妊に関する当サイトの情報は、
当時の主要なネットユーザーであった青年世代の人々を中心に急速に広がっていきました。

当時、年間中絶数は約30万件でした。
緊急避妊では約3/4の妊娠を阻止することができます。
もし、緊急避妊が完璧に普及するならば、
理論上30万件の中絶の内22万件余りの中絶は避けることができました。

年間22万件余りの中絶をなくすことができる

これほど重要な情報です。
それが秘密にされていることに悲しみより怒りを感じていました。
何が何でもこの情報を日本の女性に伝えたいとの思いが受け入れられ、
緊急避妊フィーバーが生じたのだと考えています。

しかし、この状況を苦々しく思っている人々がいました。

もう一つのノルレボ物語(3)に続く。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
「適正使用」路線の第一歩/低用量ピルの除外
ソフィア狩り
プラノバール潰し
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せっせと偽物作り

1類

「ピルとのつきあい方」で検索結果100位以内に出てくる偽物サイト
ページタイトルが「ピルとのつきあい方」
内容が当サイトのぱくり
ttp://fhcghcg.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-3c9f.html
ttp://hgsdyvh.szm.com/
ttp://huyge11.rakurakuhp.net/i_632709.htm
ttp://yaplog.jp/bustupweb/archive/5
ttp://jifuhr11.rakurakuhp.net/i_625799.htm
ttp://kowakunaikonenki.seesaa.net/article/10445834.html

2類
同工異曲サイト


2013年2月19日火曜日

もう一つのノルレボ物語(1)2000年に起きた異変

2011年5月、緊急避妊薬(モーニングアフターピル)として、
ノルレボが認可発売されました。
日本のノルレボ価格は他の先進国の4倍という常識外の価格になっています。
緊急避妊薬は認可するけれども普及はさせないという政策が見え隠れします。
その背景を見ていくことにします。

1994年、我妻堯は『日本医師会雑誌』112巻14号に「モーニングアフターピル」を執筆しました。
参照
これは、日本に緊急避妊法が紹介された最も早い事例のひとつです。
しかし、この緊急避妊法の紹介はほとんど関心を持たれませんでした。
「ピルとのつきあい方」が1999年に緊急避妊法を紹介した時点で、
緊急避妊法を知っている女性は皆無だったと言ってよいでしょう。
したがって、1999年以前に緊急避妊の処置を受けた女性もほぼ皆無でした。
「ピルとのつきあい方」は日本にある薬剤で緊急避妊ができることを具体的に伝えました。
日本における緊急避妊は、「ピルとのつきあい方」から始まったと言っても過言ではないでしょう。

1999年はまだインターネットの黎明期です。
携帯電話によるネット接続は皆無、
LAN接続も珍しく多くは電話回線接続の時代でした。
そのようなネット環境にも関わらず、
当サイト発の緊急避妊情報は爆発的とも言える広がりを見せました。
緊急避妊の普及は中絶の増加に歯止めをかけたかもしれません。
以下の図は年齢階級別の人工妊娠中絶率の推移を示しています。


20~24歳のグラフを見ると、
増加していた中絶率が2000年を境に横ばいに転じています。
当時のもっともヘビーなネット人口は、
この20~24歳の年齢層に集中していました。
ネットを通じて緊急避妊情報を得たこの年齢層で、
中絶率の上昇が阻止されたとも推測できます。
それから2年遅れて20歳未満の年齢層の中絶が低下に転じます。
ネットの準ヘビーユーザー階層であったこの年齢層にも、
緊急避妊情報が広まったのかもしれません。

この中絶率上昇の急ブレーキの原因は何でしょうか。
性教育が普及して避妊が徹底されるようになった、などということはありません。
2000年は経口避妊薬解禁の翌年ですが、
まだ普及率も低く中絶率にこのような影響を与えることは考えられません。
生活スタイルの変化により中絶されていた妊娠が出産されるようになったのでしょうか。
出生数に大きな変化は見られませんし、
生活スタイルの変化でこのような急激な変化が起こることはありません。
セックスレス化など意識の変化は、この変化と関係している可能性があります。
しかし、それにしては変化が急激すぎます。
上に述べたことがいくぶんか関係しているにしても、
この変化は緊急避妊の普及が原因となっている可能性が最も高いと思われます。
もし、そうであれば緊急避妊普及のきっかけとなった当サイトにとって、
とてもうれしいことですし、それは当サイトの誇りです。

もう一つのノルレボ物語(2)に続きます。

2000年に起きた異変
緊急避妊フィーバー
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2013年2月18日月曜日

頭痛とピル

日本の添付文書の頭痛に関する禁忌事項について考えてみましょう。

まず、「避妊法使用に関する医学的適用基準(WHOMEC)」の頭痛に関する事項は以下のようになっています。


アメリカのピルの絶対禁忌条項の10番目は以下のようになっています。
Have headaches with focal neurological symptoms or have migraine headaches with or without aura if over age 35 [see Warnings and Precautions ]

局在性神経徴候を伴う頭痛を有するか、前兆の有無にかかわらず35歳以上で偏頭痛を有する場合[警告及び注意事項を参照]


そして「警告及び注意事項」には以下のように記されています。
Headache
If a woman taking *製品名* develops new headaches that are recurrent, persistent, or severe, evaluate the cause and discontinue *製品名* if indicated.
An increase in frequency or severity of migraine during COC use (which may be prodromal of a cerebrovascular event) may be a reason for immediate discontinuation of the COC.
頭痛
繰り返し、あるいは持続的な、あるいは激しい頭痛が、*製品名*を服用中の女性に新たに生じた場合、原因を調べること。*製品名*が処方されているなら中止すること。
混合ピルの使用中の片頭痛頻度の増加や症状の激化(それは脳血管性発作の前兆かもしれない)は、混合ピル即時中止の理由たり得る。


WHOMECとアメリカの添付文書は、
①35歳以上の片頭痛について絶対禁忌としていること、
②35歳未満の頭痛について前兆の有無により、あるいはその症状により絶対禁忌としている、
の2点で共通しています。

一方、日本のガイドライン(改訂版)は、WHOMECに準じたとしています。
世界保健機関の「避妊法使用に関する医学的適用基準(WHOMEC)」に則って指導することにより、最適な避妊法を選択することが可能であり医学的障害を回避できる(表8)。不適用基準(または禁忌)のみではなく、適用基準についても述べているが、表8にOCの使用による利益がリスクを上回る状況(WHO‐1、「使用制限なし」およびWHO‐2、「リスクを上回る利益」)およびOCの使用によるリスクが利益を上回る状況(WHO‐3、「利益を上回るリスク;原則的禁忌」およびWHO‐4、「容認できない健康上のリスク;絶対的禁忌」)を要約する。


その片頭痛に関する要約は以下の通りです。
OC処方ができない場合
WHO分類3-利益を上回るリスク
片頭痛-局限的症状のない35歳以上の女性
WHO分類4-容認できない健康上のリスク
片頭痛-年齢に関わらず局在性神経兆候を有す


超要約?のためなのか、「片頭痛」について「局限的症状のない35歳以上の女性」を禁忌としています。
「局限的症状のある35歳以上の女性」は当然禁忌と推測できるだろうということなのでしょうか?
翻訳で、aura(前兆)がどこに消えたのかもよくわかりません。
わざわざ、わかりにくい要約にしたのかと考えたくなるほどです。

多くの医師が見るのはガイドラインではなく添付文書なので、
添付文書を見てみましょう。
低用量ピルの絶対禁忌・相対禁忌の記述内容は全製品共通です。
その絶対禁忌に、
6. 前兆(閃輝暗点,星型閃光等)を伴う片頭痛の患者
[前兆を伴う片頭痛の患者は前兆を伴わない患者に比べ脳血管障害(脳卒中等)が発生しやすくなるとの報告がある.]
があります。
相対禁忌には、
(8)前兆を伴わない片頭痛の患者
[脳血管障害(脳卒中等)が発生しやすくなるとの報告がある.]
があります。


①前兆(閃輝暗点,星型閃光等)を伴う片頭痛の患者を絶対禁忌とするのは合理的で、
WHOMECともアメリカ添付文書とも合致します。
②WHOMECに準じるならば、前兆を伴わない片頭痛の患者についても、ケースにより絶対禁忌または相対禁忌に指定すべきです。
現状は一律に相対禁忌となっています。
③アメリカの添付文書に倣うならば、
前兆がなくても髄膜腫が疑われる頭痛は、年齢に関係なく禁忌とすべきです。

ピルの服用と髄膜腫リスクについては、こちら

※補足をコメント↓として記しています。

アンケート:ピル(中・低用量)で生理日が調整できるって常識?

学校で教えない情報がどこまで普及しているのだろう?
なお低用量ピルで生理日を調整する方法は、
「ピルとのつきあい方」発の情報です。

【関連アンケート】
アンケート:「女性手帳」に賛成?反対?
アンケート:緊急避妊薬(アフターピル)服用までの時間は?
アンケート:ピル(中・低用量)で生理日が調整できるって常識?
アンケート:あなたのピル(OC)の服用目的は何ですか?
アンケート:ピルの服用をパートナーに知らせていますか?
アンケート:ピル1シートの代金はいくら? →中間集計②
アンケート:今、飲んでいるピルの種類は何?中間集計①

アンケート:あなたのピル(OC)の服用目的は何ですか

ピルがどのような目的で利用されているかの調査です。
 
※副効果・治療の定義
副効果・治療とは、月経困難・月経過多・月経不順など月経に関するトラブルの軽減、
子宮内膜症・PMS・PMDD・ニキビなど疾病の症状緩和、
および婦人癌など疾病の予防を指します。
なお、A.飲み始めが月経不順の改善や生理日調整は、「副効果・治療」に含めます。
B.また現在の使用目的が、もっぱら生理日調整の場合は、「副効果・治療」に含めます。
C.上記AおよびB以外の生理日調整は、副効果・治療に含めないこととします。
(理由:)「生理日調整」は、ピルについての知識レベルを反映する指標で、
知識があれば誰でも「生理日調整」を行うものであるため。



【関連アンケート】
アンケート:「女性手帳」に賛成?反対?
アンケート:緊急避妊薬(アフターピル)服用までの時間は?
アンケート:ピル(中・低用量)で生理日が調整できるって常識?
アンケート:あなたのピル(OC)の服用目的は何ですか?
アンケート:ピルの服用をパートナーに知らせていますか?
アンケート:ピル1シートの代金はいくら? →中間集計②
アンケート:今、飲んでいるピルの種類は何?中間集計①

2013年2月13日水曜日

「避妊を話し合う文化」の奥深さ

OKWaveに「ピルの服用を彼に理解してもらいたい」という質問があります。
私は日本には、「避妊を話し合う文化」がなかったと書きました。
「避妊を話し合う文化」がないから、
近代的避妊法が定着しないとも書きました。
日本にないのはピルやIUDなどの近代的避妊法ではありません。
それらは曲がりなりにも日本にあります。
日本にないのは「避妊を話し合う文化」ではないかと考えています。
前にも書きましたが、コンドーム以外の避妊手段がないに等しい日本では、
「避妊を話し合う文化」が育ちませんでした。
それはある意味当然でした。
ピルの解禁は「避妊を話し合う文化」が日本にも浸透する条件になると考え、
男性向けにピルを解説した「男性に知ってほしいこと」のページを作りました。
そのページをカップルで読まれた方も少なくありません。
日本にも徐々に「避妊を話し合う文化」が根づき始めました。
その延長線上に、OKWaveのその質問があります。


OKWaveの質問は、恋愛相談のジャンルに投稿されています。
相談内容からして当たり前と言えば当たり前です。
しかし、このことは「避妊を話し合う文化」の本質を示しているように思います。
半世紀ほど前、日本では家族計画運動が盛んでした。
その中で使われた言葉は、避妊相談です。
避妊相談と「避妊を話し合う文化」は、似ていて本質が全く異なります。
避妊相談は恋愛相談のジャンルに縁遠いでしょう。
避妊相談は医学的知識を教えてあげる性質でした。
一方、「避妊を話し合う文化」では、
アドバイザーがいても当事者2人の合意が全てです。
別の言い方をすれば、それぞれの人生観の折り合いをつけるのが、
「避妊を話し合う文化」
なのです。
医療関係者の中には、避妊相談的な感覚から脱しきれない方が多く見受けられます。


OKWaveの質問で、質問者は海外生活の経験者です。
彼女は「避妊を話し合う文化」を持った人のようです。
彼女と彼は避妊について話し合って、
意見が合いませんでした。
そこで質問を掲示板に投稿したわけです。
もし彼女にピルという選択肢がなければ、
この投稿自体がなかったでしょう。
ピルという選択肢の登場が「避妊を話し合う文化」の条件になっています。


OKWaveのこの質問をおもしろいと思ったのは、
質問者さんが「避妊を話し合う文化」の核心を語っているように思えるからです。
「避妊を話し合う文化」で話し合うのは避妊ですが、
その核心は「愛を語り合う文化」
なのです。
彼女はさりげなく書いています。

ピルは黙ってでも飲めたはずなのに、今回そうしなかったのは、彼の気持ち、自分の気持ちを量っていたのかも知れません。
ピルを飲んで、或いはコンドームのみの避妊だとしても、
彼とのセックスを選ぶ価値が自分の中に見出せるか、どうか。
今週末、もう一度話してみようと思います。

あえて黙っている人もいるんですよね。そうですよね。
でも… 黙って服用してまで、この彼とのセックスを選ぶべきなのか?
ちょっと考えてしまいます…。



彼とのセックスを選ぶ価値」とは彼女にとって何なのでしょうか。
彼女は、こうも書いています。

反面、女性はセックスと愛情はイコール、とまではいかなくても、ニアリーイコールではあるのじゃないかと思います。
相手からの愛情が感じられなければセックスに至らない。
裏を返せば… 自分が好きで、相手の気持ちも信じられる関係なら、
セックス抜きというのは辛いものがあるのです。

私に興味ないのかな? 私って魅力ないのかな?
飽きられてしまったのかな? つまらなくないかな?
余所で浮気されてしまわないかな?
等、男性側からしたら不可解かも知れませんが、
そういうストレスも発生してしまいます。
セックスでしか愛情を量れない、なんてことはありませんが、
重要な1ピースであるということは言えると思います。



彼女が彼に理解してほしかったのは単に「ピル」のことではなく、
セックスについて愛について共通の価値観を持つことだったのではないかと思えます。
うまく説明できないのですが、
男が愛し女が愛される関係では「避妊を話し合う文化」は育たなくて、
相互に対等に愛しあう愛の関係性と「避妊を話し合う文化」が関係している
ように思うのです。
質問者の彼氏さんは、男が愛し女は愛される関係で考えているので、
彼女の愛の形が理解できていない、
それを彼女はもどかしく感じているのではないか、と。
これは単なる感想ですがそのように思えるのです。


回答者さんの1人は、海外に友人を持っているピルユーザーでした。
彼女は以下のように書いています。
ちなみに、私の周りのピルユーザーは、
パートナーに告げる派と告げない派に分かれています。
避妊は二人で一緒に考えるものだという考えの女性は、
ピルのことをパートナーに告げています。

海外の友人達は、ピルのことを告げた上で、
ピル+ゴムで二重の避妊をしています。

告げない派の女性は、パートナーに「ゴムなし・生中出しでやりたい放題だ!ラッキー!」と思われたくない、
ということでピルのことは内緒にしてゴムを併用していますね(苦笑)


「避妊を話し合う文化」を知っているこの回答者のアドバイスは、
「避妊についてはお二人できちんと話し合って決めるべきだと思います。
(中略)妊娠を望まない状況で避妊は非常に大切なことですので、
お二人でとことん話し合うべきだと思います」でした。
とことん話し合うべき」は、いかにも「避妊を話し合う文化」を知っている人です。
そう、「とことん」なのです。
なぜ「とことん」なのか?
「避妊を話し合う文化」は愛の形まで関係する奥深さを持っているからではないか、
そのように思えるのです。

中国の避妊事情

中国の避妊事情の一端は、林謙治ほか「上海市における女性の人工妊娠中絶及び避妊に関する意識について」によって知ることができます。
この調査は上海で行われ、ほとんどが既婚者というサンプルの偏りがあります。
サンプルの偏りがあるにしても、中国の避妊事情の一面を示しているでしょう。
調査では興味深い結果が示されています。
1ヶ月の性交回数は、東京が2.6回であるのに上海では5.4回でした。
他の調査でも、日本の性交回数の少なさが明らかになっています。
しかも、さらに減少傾向をたどっているように見えます。
この性交回数の少なさが、避妊法の選択に影響しているかもしれません。


上海ではIUD利用率の高さが際立っています。
これは調査対象が既婚者であり、出産経験者比率が高いことと関係しています。
その点を考慮しても、IUDの利用率67.6%は注目されます。
欧米でも出産後はIUDが選好される傾向があり、
既婚者については欧米と似通った避妊選択が行われていると言えるでしょう。
同調査では、避妊についてパートナーとの話し合いが、
上海では90%の高率であることを指摘しています。
この指摘は非常に重要な指摘です。
上海では近代的避妊法(ホルモン避妊法・IUD・手術)の普及率が79%に達しています。
東京では、わずか5.6%です。
近代的避妊法の普及している国には、
必ず男女で避妊について話し合う文化があります。
近代的避妊法普及の鍵はこの文化ではないかと考えています。
カップルの話し合いを援助するシステムも重要です。
同調査によると、中絶後の避妊カウンセリングの満足度は、
上海で55%東京で23%でした。
それぞれのカウンセリングの内実はわかりませんが、
一般論としてカップルそれぞれの事情に則したアドバイスが満足度を高めます。
誰にでもピル推奨とか、誰にでもIUD推奨とかは、
カウンセリングとは言えません。
決めるのはあくまでカップル2人の話し合いで、
カウンセラーは2人の話し合いにアドバイスするという形です。
コンドーム普及推進とか、IUD普及推進とか、ピル普及推進とか、
それらは「避妊法を話し合う文化」となじみません。
ピルは中出しアイテムと勘違いされるといけないからこっそり使おうとか、
ピルこそベストな避妊法だとか、
個人的信条を振り回す人がいる限り近代的避妊法を受け入れる文化は育ちません。
近代的避妊法は避妊を話し合う文化という土壌に根付くものだと思います。

2013年2月12日火曜日

避妊について話し合う文化

「避妊について話し合う」の意味

日本の避妊は、ほぼコンドームだけという状態でした。
そのため、避妊について男女でじっくり話し合う文化が存在しませんでした。
このように書くと、
「避妊について話し合いましょう」
は日本でも常識だと思う方もいます。
たしかに、日本でも「避妊について話し合いましょう」と言われることがあります。
しかし、「避妊について話し合う」意味が、
日本と欧米では全く違います。
日本で、「避妊について話し合う」の意味は、
「避妊をしっかりしよう」という意味以上ではありません。
ですから、話し合うまでもないのです。
避妊方法はコンドームと決まっているのですから、
何を話し合うの?となってしまいます。
一方、欧米と言うよりも日本以外の国には、
避妊の多様な選択肢があります。
だから、「避妊について話し合う」の意味は、
どのような避妊法を選択するかの話し合いになります。
以前、フランスの避妊法について書いたことがあります。
その際に、年齢階級別の避妊法について図示しました(新しいウインドウ)
この図はフランスに「避妊について話し合う文化」があることを
如実に示しています。
年齢によって避妊法が変化していますが、
それはカップル間の話し合いの内容を示しています。

避妊法選択における「お互いの気持ちを尊重すること」

避妊についての話し合いでは、
避妊の切実度、性感染症リスク、セックス頻度、宗教観、副作用リスク、コストなどが、
検討要素となります。

「STD検査してる?」
「まだだったら、コンドームは必須だね」

とか、

「ボクら会えるのは月に2度程度ね」
「だったら、コンドームと殺精子剤でいいんじゃない?」
「でも今は絶対妊娠できないから、コンドームとピルの方が安心できる」

とか、
このような話し合いで避妊法が選択されます。
避妊法は2人で相談して決めることです。
このような文化のない日本では、
「オレ、きちんとコンドームつける人だから心配しないでいいよ」
などと言う男性がいそうです。
このような男性がいたら「避妊について話し合う」文化の国では「はぁ?」と言われるでしょう。
同様に「私、ピル飲んでるから心配しないでいいよ」
などと言う女性もいるかもしれません。
そのような女性がいたら、やはり「えっ?」と思われるでしょう。
避妊法は男性が決めるものでも女性が決めるものでもありません。
お互いがよく話し合い、お互いが納得できる避妊法を選択するものなのです。
コンドームでの避妊に不安を感じる女性は少なくありません。
その場合、女性はコンドーム+ピルを提案します。
避妊法の話し合いはお互いが納得できることが重要です。
「避妊について話し合う」文化の国では、この女性の提案を男性は拒否できません。
愛すると言うことはお互いの気持ちを尊重することだからです。

文化ギャップの深さ

日本には「避妊について話し合う」という言葉はあっても、
その内実がないと書きました。
それはコンドームしか選択肢がないという環境では仕方のないことでした。
話し合いがない中で、男性が避妊の主導権を持ってきました。
避妊は男性が決めること。
これがこの国の掟だったのです。
だから、「避妊をして」と言えない女性が生み出されました。
ピルという避妊手段が使えるようになれば、
日本にも「避妊について話し合う」文化が生まれると考えていました。
ところが、それは楽観的すぎる見方だったようです。
日本では、「密かに」ピルを選択する女性が生まれました。
それだけではありません。
ピルを普及するという看板を掲げながらコンドーム普及に取り組んでいるグループは、
「避妊について話し合う」文化を否定しています。
彼らは「ピルは生出しするためのアイテムではない」から、
ピルを服用していることは内密にするのがよい、
ピルを飲んでいることを告げれば生出しOKと勘違いされる、
というのです。
たしかに、男性にコンドームを使用させるにはその方がよいかもしれません。
日本の男性は女性を思いやることができないのだ、
といわれればそうかもしれません。
「避妊について話し合う」という文化は、
男女の信頼関係のあり方まで絡む問題なのかと思いました。

続き「避妊を話し合う文化」の奥深さ


アンケート:ピル1シートの代金はいくら?

ピルの価格についてのアンケートです。 ピルの服用を考えている方の参考にもなりますので、ご協力お願いします。保険適用ののヤーズ・ルナベル・中用量ピルは除きます。
【関連アンケート】
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アンケート:緊急避妊薬(アフターピル)服用までの時間は?
アンケート:ピル(中・低用量)で生理日が調整できるって常識?
アンケート:あなたのピル(OC)の服用目的は何ですか?
アンケート:ピルの服用をパートナーに知らせていますか?
アンケート:ピル1シートの代金はいくら? →中間集計②
アンケート:今、飲んでいるピルの種類は何?中間集計①

2013年2月10日日曜日

アンケート:今、飲んでいるピルの種類は何?

ピルの種類についてのアンケートです。 ご協力よろしくお願いします。
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アンケート:「女性手帳」に賛成?反対?
アンケート:緊急避妊薬(アフターピル)服用までの時間は?
アンケート:ピル(中・低用量)で生理日が調整できるって常識?
アンケート:あなたのピル(OC)の服用目的は何ですか?
アンケート:ピルの服用をパートナーに知らせていますか?
アンケート:ピル1シートの代金はいくら? →中間集計②
アンケート:今、飲んでいるピルの種類は何?中間集計①

政治的医療情報のツケ

根深い医療情報不信

子宮頸がんワクチンについての「発言小町」の投稿から、
一連の子宮頸がんについてのエントリーを始めました。
http://finedayspill.blogspot.jp/2013/02/blog-post.html
子宮頸がんワクチンについては世界各国で似たような議論があります。
しかし、「発言小町」の投稿には、明らかに他国には見られない特徴があります。
それは根深い医療情報不信です。
医療情報は真実を語っていないのではないか、
都合の悪い情報が隠されているのではないか、
都合のよう情報だけ伝えられているのではないか、
という不信感が子宮頸がんワクチンへの懐疑論に繋がっています。
ここには陰謀史観だといって片付けられない問題があります。
子宮頸がん偏見問題では患者さんのブログを取り上げました。
その中でも、偏見が医療者によって語られることについて不満が表明されていました。
昨日のブログでは、和田秀樹医師のブログを取り上げました。
これも子宮頸がん偏見を助長する内容です。
日本の医療者の質が低いわけでは決してないのですが、
日本の医療者にはある習性が染みついているように見えます。
それを端的に示すのが和田氏の言葉、
「なんで、こんな妄想的な話をしたかというと、
子供の教育には、子供の性教育には使えると思ったからだ」

のように思えます。
「妄想的な話」の蔓延について考えてみることにします。

やっと事実が伝えられるようになった

現在、子宮頸がん偏見を明確に否定する言説が伝えられるようになっています。
たとえば、「子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp」には、
以下のような記述があります。
性交渉が頻繁な方が、子宮頸がんになりやすいの?子宮頸がんの原因となるHPVは、性交渉の経験のある人なら誰でも一生に一度は感染する可能性のあるごくありふれたウイルスです。HPVの感染自身は決して特別なものではありません。
また、HPVに感染してもその殆どが自然になおり、ごく一部の持続的に感染が続く女性が子宮頸がんを発症すると言われています。またHPV感染だけでは、すぐがんにならないことも知られています。
しかし、子宮頸がんは性交渉によるHPV感染が原因で起こるということから、「性交渉が頻繁な人がなりやすい」という誤った認識がされることがあります。
コンドームでの感染予防はあまり期待できません。


また、「しきゅうのお知らせ 子宮頸がん基礎知識」にも、
以下のような記述があります。
HPVは、すべての女性の約80%が一生に一度は感染していると報告があるほどとてもありふれたウイルス。そのため、性行動のあるすべての女性が子宮頸がんになる可能性を持っています。
HPVの子宮頸部への感染は、外陰部における粘膜と粘膜の接触により起こります。コンドームでは外陰部全てを守ることはできないため、HPVは女性の腟や外陰部などから子宮頸部へ感染します。したがって、コンドームではHPVの子宮頸部への感染を完全に予防することはできません。


上記のどちらも子宮頸がんワクチンの啓発サイトです。
2つの子宮頸がんワクチン啓発サイトが、
子宮頸がん偏見を否定する同様な記述を掲げています。
これは、おそらく偶然ではありません。


なぜ偏見は垂れ流しにされたのか?


和田秀樹医師は、「なんで、こんな妄想的な話をしたかというと、
子供の教育には、子供の性教育には使えると思ったからだ」

と正直に書いています。
これこそ、偏見が垂れ流しにされた理由です。
ピルの普及を推進するという看板で、
コンドームの普及推進活動をしているグループがあります。
そのグループは「コンドームの普及」という目的のために、
奇妙な言説を総動員します。

「知識を深め、正しく利用してほしい
下品な言い方ですが「ナマで中出し」ということは
極端ではありますが妊娠もするしガンになる率を高めるリスクを負う
ということをご存知でしょうか。
「ピルでガンになる(なりませんが)」という心配をする人はいても、
無防備なセックスが、性病だけでなく子宮頸ガンになるリスクを高める」
という事実は意外に知らない人が多いです。」
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=21535801&comm_id=29074&page=1&from=first_page


コンドームのHPV感染防止効果は限定的ですがないわけではありません。
HPV感染防止効果があれば子宮頸がん予防効果もあるだろう、
との推測も間違いとは言えません。
この点について、『低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版)』は、
ピルユーザーで子宮頸がんが増加するとした研究について、
「バリア避妊法・・・のバイアスを考慮しても、結果は変わらなかった」
と指摘しています。
つまり、ピルユーザーにコンドームを使用しない人の多いことの影響ではなかった、
と述べているのです。
彼らはこのような自らの目的に不都合な知見は無視して、
コンドームを使用しないと子宮頸がんリスクが高まると断言しています。

さらにこのグループと関係の深い医師は、
「私も、自分がHPVに感染するまで「お互い検査をして何も検出されなければ、
特定の相手とならコンドームは必須ではないのでは?」と考えていました。
でも、結婚を考えていた相手との間でHPV感染が分かり
(結婚しようと思ってコンドームを使わなくなったとたんの感染でしたね~)、
「妊娠を目指すまでは絶対にコンドームは外すべきではない!」と自信を持って言えるようになりました。」


とのコメントを寄せています。
同医師が「コンドームを使わなくなったとたんの感染」と考えるのは、
コンドームの完全な感染防止効果を前提としているように思えます。
「妊娠を目指すまでは絶対にコンドームは外すべきではない!」は、
ご立派なご信条としか言いようがありません。
このグループの考えと和田秀樹医師のそれはとてもよく似ています。
「コンドームを使用させる」という目的のために、
コンドームをつけないと子宮頸がんになるぞと脅しているのです。
和田医師の場合は、「不特定多数とセックス」は子宮頸がんになるぞとも脅しています。



目的が正当であれば

科学的根拠の希薄な言説を弄する人達は、
全く恥じることがありません。
批判されることもほとんどありません。
彼らは言います、
コンドームはつけた方がいいだろ?、
不特定多数とセックスはしない方がいいだろ?、
当たり前じゃない?、と。
目的が正当であれば少々の誤ったあるいは不確実な説明も許される、
という文化が日本にはあります。
「嘘も方便」なのです。
「嘘も方便」は封建君主の好んだ思想です。
封建君主的バタ-ナリズムの継承者は医療関係者なのかもしれません。
ただ、この文化は一般国民にも広く継承されています。
同じ意見の人の間に心理的連帯感が生まれることがあります。
これはどこの国でも同じです。
ところが、日本では心理的連帯感を共有する「仲間」の中では、
相互批判が行われなくなります。
ムラが作られるのです。
私自身は、日本の国土で原発を続けていくことは、
メリットよりもデメリットの方が大きいと考えています。
いわば、脱原発派です。
3.11以後ネット空間上に脱原発派が生じましたが、
それが巨大な脱原発派ムラになっていることに失望しました。
「嘘も方便」の文化は私たちの身近に存在するのではないでしょうか。
そしてそのツケを払うのは一般国民です。
「正しい目的」のための手段として流布される偏見的医療情報は医療情報不信を生み、
医療情報不信から生み出される情報が健康利益を損ないます。

2013年2月9日土曜日

和田秀樹氏のオフィシャルブログ「テレビで言えないホントの話」に異議あり

精神科医和田秀樹氏のブログは、影響力のあるブログです。
そのブログの中で、和田氏は以下のように述べました。

和田秀樹オフィシャルブログ「テレビで言えないホントの話」
2013-02-04 09:08:22 教育で教えるべきこと
http://ameblo.jp/wadahideki/entry-11463354910.html
さて、また歌舞伎の大御所が亡くなった
ここからは私の勝手な妄想だが、やはり若いころに不特定多数の女性と交わるのは、
がんや白血病や免疫不全の原因になるように思えてならない
ウィルスというのは、少なくともDNAを変質させる
どんな危険があるのかわかっていないウィルスが多いがHPV,HCVをはじめ、
明らかにガンの原因になるものは多数見つかっている
大奥のように生娘を集めていても親から垂直感染を受けるということはあり得るだろうが、
やはりリスクは少ない
しかし、今のご時世は、不特定多数はかなり危険だということだろう
歌舞伎の世界というのは、(中略)
なんで、こんな妄想的な話をしたかというと、
子供の教育には、子供の性教育には使えると思ったからだ
日本じゃAIDSなんかないと思っているガキでも、あるいは少女でも、ガンは現実のものだ
あんまり遊んでいると、あるいはゴムを使わないと、
ガンになって若死にするぞと、こういうニュースを聞いて、子供に教える
テレビでは言えないが、子供にだって多少こたえるのではないか?
性教育というのは、セックスの勧めでなく、セックスがいかに怖いか、
リスクがあるか、妊娠などで女性を傷つけるかを教えるべきだ
自殺予防教育と、性の危険を教える教育は、ちゃんと保健体育の時間に入れてほしい
それが子供の命、大人になってからの命を守る教育というものだろう

体罰の全否定2013-02-05 16:34:09
http://ameblo.jp/wadahideki/entry-11464230104.html
昨日のブログで、不安になった人や、若くてがんになった人を責めるようで不快に思った人がいるようだ
私としても、そういう人を責めるつもりはさらさらない
また、もちろん若くてがんになった人がみんなセックスでウィルスが入ってきたせいだ
という非科学的なことを言うつもりはない
そういう人もいる可能性があると私が信じているだけだ
子宮頚がんだって、セックスの多い人のほうがなりやすいし、
HPVの感染症の説が強まっているが、
だからといって、なった人がみんな不純な交遊ということはないだろう
エイズにしても当初は性感染ばかりが注目されたが、薬害の人だっている
ただ、だからといって、エイズの予防のために不特定多数とセックスをするのはよくないとか、
きちんとゴムをつけろというのがいけないということにはならないだろう
そのほうが公益にかなっているし、若者には必要な啓蒙だからだろう
まだセックスでどのようにウィルスの感染が起こり、それがどの程度がんにつながるのかは、
よくわかっていないというのが真相だろう
でも、多少のリスクはあるのは確かだ
だから、私は自分の子どもにだったらそういうリスクを伝えると思う
少なくとも放射能が怖いからと言って、外に出さないというよりは、
リスク回避の上ではまともな親のやることだとは思う
学校現場でも、今、確実に、ゴムをつけないセックスが危ない例として、
エイズのほか、HCV、HPVの感染くらいは教えていいだろう


和田氏は精神科医ですが、一応医師です。
しかも、影響力のあるブログに書く内容としては、
杜撰すぎるのではないかと思います。
和田氏によれば、エイズもHCV(C型肝炎ウィルス)もHPVも同列になっています。
HCVは性交渉による感染はまれです。
HPVはエイズ(HIV)と大きく異なる点があります。
HPVとHIVの相違点を2点指摘しておきたいと思います。
まず、HPVですが良性・悪性の腫瘍を引き起こします。
悪性の腫瘍が子宮頸がんです。
HPVはHIVと異なり、常在菌とも言えるほどありふれたウイルスです。
女性で言えば少なくとも5割以上、恐らく8割の人が感染を経験します。
感染は非常に多いけれども、癌化を引き起こすのは1/1000とかの非常に低い確率です。
和田氏はHPVをコンドームで予防すると言います。
たしかに、コンドームで感染を一定程度抑えることはできますが、
常在菌とも言えるほどポピュラーな菌なのでコンドームの効果は限定的です。
コンドームをつけて子どもを作るわけにはいきませんから、
コンドームで予防するというのは万能の予防法ではありません。
このような事情で、5割とか割の人が感染を経験することになります。
この点が、HPVとHIVの相違点の第1です。
第2点は、別のエントリーでモデルを示して説明しました。
繰り返しになりますが、もう一度説明します。

第1のモデルは、男性1000人中1人が感染者である場合です。
男性経験の人数が多いほど感染者と当たる確率が高くなります。
100人の男性経験  10%
10人の男性経験  1%
3人の男性経験  0.3%
2人の男性経験  0.2%
1人の男性経験  0.1%
男性経験数と感染者に当たる確率は比例します。
このモデルでは男性経験が多いほど、感染リスクは高いことになります。

第2のモデルは、男性1000人中450人が感染者である場合です。
100人の男性経験  100%
10人の男性経験  100%
3人の男性経験  100%
2人の男性経験  90%
1人の男性経験  45%
この結果を統計処理すれば、
やはり男性経験数が多いほど感染者に当たる確率は高いということになります。
しかし、男性経験数が2人であろうと、3人であろうと、100人であろうと、
ほとんど確率は変わりません。

第1のモデルは感染者比率の低いHIV感染などに当てはまります。
このモデルでは「男性経験が多いほど、感染リスクは高い」は妥当します。
第2のモデルは感染者比率の高いHPV感染などに当てはまります。
このモデルでは「男性経験が多いほど、感染リスクは高い」は必ずしも妥当しません。
和田氏は、「子宮頚がんだって、セックスの多い人のほうがなりやすいし」と述べています。
「セックスの多い人」が単にセックスか数を意味するのなら全く当てはまりませんし、
男性経験が多い人を意味するのであっても当てはまりません。
このような偏見が百害あって一利もないことは、
こちらで述べています。
和田氏はご自身の考える性教育を行う目的のために、科学を手段として利用しようとするものです。
その言説はまさに政治目的のために科学をねじ曲げるものと言わねばなりません。

「差別なき偏見」の典型としての子宮頸がん偏見

偏見と差別の関係
世の中にはさまざまな偏見があります。
偏見はしばしば差別を生み出します。
差別とは理不尽で不利益な扱いです。
差別は偏見と結びついていることが多いのですが、
偏見は必ずしも差別と結びついていないことがあります。
社会の進歩と人々の努力によって差別は解消される方向に進んでいます。
しかし、差別がなくなることと偏見がなくなることは別です。
差別と結びつかない偏見は、
目に見えないのでとても厄介です。
これからは「差別なき偏見」がますます増えてくることになるでしょう。

「差別なき偏見」の厄介さ
ピルユーザーへの偏見について、
中迎聡氏は「男がどういう偏見持ってようが関係なくてだね
(服用するのは女性なんだから男性がどう思おうが服用できる)、」
とツイートしたことがあります。
この言説は見方によっては、2つの意味が込められています。
たとえ偏見の目で見られていても気にしないで乗り越えろ、
とする励ましの言葉だと考えられなくもありません。
しかし、もう一つの意味は偏見を気にする方に問題があるとして、
偏見を免罪する言説になっているとも考えられます。
中迎聡氏流の心の持ちよう論は何かと応用可能です。
「世間が女は○○という偏見持ってようが関係なくてだね
(△△するのは女性なんだから世間がどう思おうが△△できる)、」
中迎氏流を使えば、
全ての偏見を免罪し偏見を受ける側の問題に還元することができます。
しかも、偏見を受ける側の人を励ます言説だと強弁することさえできます。
「差別なき偏見」の厄介さは、心構え論に還元されるだけではありません。
「差別なき偏見」は、見解の相違論でうやむやにされてしまいます。
差別は事実として語ることができますが、
偏見は意識なので「誰がそんなこと思っているの?」で逃げられてしまうのです。
「差別なき偏見」の厄介さ子宮頸がん偏見を例に見てみましょう。

子宮頸がん偏見について
子宮頸がん患者が社会的に不利益な取扱をされていることは、
恐らくないでしょう。
つまり、差別はないと考えてもよいでしょう。
しかし、先日のブログで見たように、
子宮頸がん患者に対する偏見は存在します。
その偏見は、
「性交開始年齢が早く、不特定多数の男性とセックス経験がある女性が子宮頸がんになりやすい」
というものです。
子宮頸がん患者がこのような目で見られることに嫌悪感を持つのは当然と思います。
まさに「差別なき偏見」のパターンなのです。
「差別なき偏見」はいったん広まってしまうと、
その解消には絶望的なくらい多大なエネルギーを要します。
「差別なき偏見」の仕組みについて考えてみます。

①露見しにくさ
患者さんのブログでは、明確に偏見の存在を問題視しています。
しかし、偏見の対象となっている人が偏見に異議を唱えることはまれです。
なぜなら、患者さん自身が偏見を知っていれば、
子宮頸がんであることをカミングアウトしません。
カミングアウトしなければ、
この偏見は露呈しないのです。
患者さんが偏見を知らずにカミングアウトしたとしても、
周囲が直接この偏見を本人に伝えることもまれです。
偏見が露呈しなければ、それを糺そうという声も上がりません。
この偏見は露呈することなく、じわじわ広がっていくのです。

②当人による受け入れ
患者さんのブログを見ると、偏見の存在に気づく気づき方も様々ですし、
偏見に理由がないことを知るきっかけも様々なようです。
ブログは偏見の不条理に気づいた人が書いています。
しかし、この偏見が偏見であると当人は気づきにくいのです。
「性交開始年齢が早い」といえば、ある程度の人が自分に当てはまると考えます。
「複数の男性と性交渉がある」といえば、ある程度の人が自分に当てはまると考えます。
そのために、あるいは自責の念を持ち、あるいは後悔する人がいます。
この偏見は当人によって受け入れられていることが少なくありません。

③真実性
この偏見は医療関係者によって語られることが多く、
そうかもしれないという真実性の響きを持っています。
しかし、一面の真実が紛れもない真実として語られることも少なくありません。
「男性経験が多いほど子宮頸がんにかかるリスクが高い」について
具体的モデルを上げて考えてみましょう。

もし、男性1000人中1人がHPV感染者である場合、
男性経験の人数が多いほどHPV感染者と当たる確率が高くなります。
100人の男性経験  10%
10人の男性経験  1%
3人の男性経験  0.3%
2人の男性経験  0.2%
1人の男性経験  0.1%
男性経験数とHPV感染者に当たる確率は比例します。
このモデルでは男性経験が多いほど、子宮頸がんリスクは高いことになります。

しかし、HPV感染は少なくとも50%、おそらくは80%の人が経験するほどポピュラーな感染です。
そこで男性1000人中450人が感染者である場合を考えてみます。
100人の男性経験  100%
10人の男性経験  100%
3人の男性経験  100%
2人の男性経験  90%
1人の男性経験  45%
この結果を統計処理すれば、
やはり男性経験数が多いほどHPV感染者に当たる確率は高いということになります。
しかし、男性経験数が2人であろうと、3人であろうと、100人であろうと、
ほとんど確率は変わりません。

HIV感染は上のモデルに近く、HPV感染は下のモデルに近いのです。
一般人はこのようなからくりを知らないので、
「男性経験が多いほど子宮頸がんにかかるリスクが高い」を真に受けてしまいます。

④道徳性のメッセージ
「男性経験が多いほど子宮頸がんにかかるリスクが高い」や
「性交開始年齢が早いほど子宮頸がんにかかるリスクが高い」は、
貞淑な女性を善とする道徳感情にマッチします。
道徳感情にマッチする言説はより多くの人に受け入れられる傾向があります。

⑤政治的誘導
政治は政策実現に都合のよい「科学的成果」を取り入れようとします。
子宮頸がんについての偏見は、性感染症の拡大防止の政策に好都合なので放置し、
場合によっては偏見の拡大を誘導します。

なぜ偏見の除去が必要なのか
この偏見が子宮頸がん患者さんを傷つけ、
あるいは必要のない後悔を強いています。
これがこの偏見を除去したいと思う理由です。
子宮頸がん偏見は当事者だけの問題ではありません。
子宮頸がんを減らす決め手は、ワクチンと検診です。
ところが、このような偏見が広まれば、
ワクチンや検診の妨げとなります。
日本の検診率はようやく30%に達するかどうかというレベルです。
先進国中でダントツの最悪検診率です。
これを他の先進国並みに上げていくには、
性経験のある女性なら誰でも可能性があるとの認識が不可欠です。
ところが、この偏見は正しい認識普及の障害となります。
検診を必要ないと思う女性や検診を躊躇する女性がでれば、
子宮癌当事者でない女性の健康利益にも反します。
子宮頸がん当事者のために、そしてわたしたち自身のために、
この偏見をなくしていきたいものです。

つけたし
子宮頸がん偏見は、他の偏見や差別と非常に似ています。
女性に対する、ピルに対する、・・・偏見や差別。
ピルユーザーは理不尽な偏見や差別を許さない独立自尊の人であってほしい、
と密かに願っています。

2013年2月7日木曜日

子宮頸がんに対する偏見をなくそうよ


上は過日のツイートです。
子宮頸がんを性感染症の一種と考えると、
どうしても偏見が生まれ患者さんを二重に苦しめることになります。

「子宮頸がん 偏見 ブログ」で検索してみて下さい。

子宮頸がん患者さんへの偏見が、患者さんを二重に苦しめています。

ピルと子宮頸がんに対する偏見は、
日本と一部アジアの国に独特です。
私は以前、
「広がる偏見『ピルはビッチな薬、ヤリマンの薬』についてのツイート」をまとめました。
ピルと子宮頸がんに対する偏見は、根っこは一つであると考えます。
偏見が広がるには必ず原因があり、
しかも目につきにくい形で広がります。
それは自然になくなるものではありません。
偏見をなくすには毅然として偏見に立ち向かう力が必要です。

子宮頸がんに対する偏見について考えてみることにします。
ニキビはアクネ菌によって引き起こされます。
しかし、「アクネ菌が付着するとニキビができる」は正しくありません。
アクネ菌は子どももお年寄りも男も女も皆持っている菌です。
身体にアクネ菌が付着しても必ずニキビになるわけではありません。
体調がアクネ菌の増殖に好条件になるとニキビができます。
理屈の上ではアクネ菌の付着を避ければニキビにはなりませんが、
アクネ菌はそこら中にいる菌なので付着を防ぐことは不可能です。
ニキビとアクネ菌の関係は、子宮頸がんとHPVの関係と似ています。
子宮頸がんの多くはHPVウイルスによって引き起こされます。
このウイルスも常在菌と言えるほどポピュラーです。
男性も女性もほとんどの人が感染しますが、
自然に消滅しています。
身体の抵抗力が低くなるなど何かの条件があると、
消滅せずに子宮頸がんを引き起こします。
アクネ菌とHPVに違いがあるとすれば、
HPVは性交渉により膣内に運ばれる点です。
性交渉がなければHPVが膣内に運ばれるチャンスはほとんどないでしょうが、
性交渉がある限りHPVが膣内に運ばれるチャンスは皆同じです。

上に書いたことを疫学データで確認してみましょう。
こちらにピルユーザーと非ピルユーザーの子宮頸がんリスクを較べたデータがあります。
非ピルユーザーには、独身で性経験のない女性も
ずっとコンドームで避妊し続けた女性も含まれているでしょう。
一方、ピルユーザーのほとんどはコンドームの併用はしていなかったと考えられます。
この両者の死亡率や罹患率に有意差はありませんでした。
これは何を意味しているのでしょう?
もし感染率が低く罹病率(癌化率)が高いのなら、
生活条件が罹患率に反映するはずです。
しかし、実際は感染率が非常に高く罹病率(癌化率)が非常に低いから、
生活条件が罹患率に反映しないのです。
子宮頸がんに罹患するのは10万人中15人程度です。
ほんの15人です。
これは生活条件を反映したものではなく、
個別の身体条件により罹患が生じることを示しています。
ほとんどの女性は妊娠出産を経験します。
妊娠するためには性交渉は不可避なのであり、
HPV感染のリスクを避けることはできないのです。
なお、ピルの服用期間によるリスク変動についてはこちらで解説しています。

上ではピルユーザーの疫学研究データを見てみました。
しかし、このようなデータを引っ張り出さなくても、
少なくとも女性の過半はHPV感染を経験することが知られており、
感染率が非常に高いことは周知の事実です。
つまり、特定の生活条件を持つ人だけがHPVに感染するのではありません。
子宮頸がんを性感染症の一種とする考えが偏見のもとになっており、
この考えが広まれば偏見も同時に広まることになるでしょう。

子宮頸がんを性感染症と見なすことに反対な理由が3つあります。
1つは、上に書いたように偏見が患者さんを苦しめることになるからです。
それが偏見である理由も書きました。
2つは、ワクチン拒否の隠れた理由になっていることです。
HPVワクチンを受けない理由は色々あります。
しかし、個々の理由はそれほど合理的な理由ではありません。
合理的な理由でないのになぜワクチンを受けない決断をするのでしょう。
それはピルに対する偏見と同じで、
性的乱れがなければワクチンは必要ないとの考えが根底にあるように思われます。
子宮頸がんを性感染症と見なせば、
ワクチン摂取率が下がるおそれがあります。
3つは、効果の不確かな予防法が取られてしまう可能性があるからです。
性感染症はコンドームである程度予防できます。
しかし、子宮頸がんをコンドームで確実に予防することはできません。
ピルユーザーと非ピルユーザーで子宮頸がんの罹患率・死亡率に有意差はないと
上に書きました。
試験期間を限って比較試験をするとコンドームは感染に対して有効であることがありますが、
子どもを作るのにはコンドームは着けませんから、
決定的に大きな差にはならないのです。
それに感染と罹患は別問題です。
コンドームの使用がHPV感染にそれほど有効でないことは、
コンドームが普及している日本の罹患率が特別に低くないことでも裏付けられます。
今でも子宮頸がんはコンドームで防げると思っている人がいるのに、
性感染症認定してしまうとますますコンドーム過信が広がるでしょう。
コンドーム過信はワクチンと検診の普及に対して妨げとなるのではないかと恐れます。

2013年2月3日日曜日

子宮頸がんワクチンとピルの類似性

相談・意見交換サイトとして最も充実したサイトの一つは、
ヨミウリ・オンライン内の「発言小町 」です。
「発言小町 」は参加者・閲覧者も多く、
一方的な意見のチェックが機能しているように見えます。
その「発言小町」に「子宮頸がんワクチン、夫と意見が合いません 」とのトピが立てられました。
このトピには148もの意見が寄せられました(2013.2.3現在)。
子宮頸がんワクチンに対する積極派と消極派の意見はそれぞれ一理あります。
完全にどちらかが正しいという問題ではありません。
だから、両者は数の上でほぼ均衡しています。
(※ワクチンはHPV感染を予防するもので、子宮頸がんワクチンの用語は正確さに欠けますが、通称を使用しています。)

ピルと子宮頸がんワクチンの類似点
子宮頸がんワクチンに対する積極派と消極派の意見を読んで感じるのは、
ピルに対する見方とあまりにも類似していることです。
ピルと子宮頸がんワクチンのそれぞれについての見方が類似するのは当然のことです。
ピルと子宮頸がんワクチンの類似点を列挙してみましょう。

①セックスを前提 ピルと子宮頸がんワクチンの両者は、セックスをしないのであれば無用です。
両者はセックスをする前提で意味のあるものです。

②予防的 ピルは妊娠のリスクを、子宮頸がんワクチンは子宮頸がんのリスクを、低減するものです。
既に生じた問題を解決するものではなく、これから起きるかもしれないリスクを低減するという点でも共通しています。

③リスクの度合い そのリスクの頻度は誰もが高いと感じるほどには高くない点も共通しています。
予期しない妊娠は誰にも起きることではありませんし、
子宮頸がんの罹患は誰にも生じるのではありません。

④不完全性 リスクを低減するもので、完全になくすものでない点も共通しています。
ピルは妊娠リスクを低減しますが、避妊の失敗が全くなくなるわけではありません。
ワクチンは一定の型のウイルスに有効なのであり、
子宮頸がんを完全に予防するものではありません。
また有効性の持続期間は十分検証されていません。

⑤マイナートラブル ピルの服用初期には、吐き気があったり不正出血があったりのマイナートラブルが現れることがあります。
ワクチン接種時の強い痛みはピル服用初期のマイナートラブルと似ています。

⑥重篤な副作用 ピルには血栓症のような重篤な副作用の生じることがあることも事実です。
しかし、リスクが高まる副作用がある一方で、疾病予防効果もありトータルではメリット・デメリットが相殺されます。
一方、ワクチンが不妊の副作用を引き起こすという根拠はありませんが、
長期的にみると何らかの疾病リスクを高める可能性は皆無ではありません。

⑦「代替手段」 どちらにも「代替手段」が存在します。
予期しない妊娠を避けるためにコンドームの正しい使用は有効な方法です。
定期的検査は子宮頸がんの予防に有効な方法です。
「代替手段」に「」を付けたのは、二者択一的な意味の代替手段ではないためです。

⑧女性だけが ピルは女性が服用します。
ワクチンは男性も接種できますが、主たる対象は女性です。
そのため、女性だけが負担を強いられると考える人がいます。

⑨異性関係の乱れ どちらも異性関係の乱れを連想する人がいます。
予期しない妊娠、望まない妊娠は、パートナーが一人でも生じます。
HPV感染も同様です。
しかし、ピルを必要とするのは多くの異性関係を持つ女性とする偏見があり、
同様に異性関係の乱れがなければHPV感染は防げるとの偏見があります。

⑩性行動の抑止力 ピルやワクチンを服用すれば妊娠や感染の恐怖が減少し、
性行動の抑止力が小さくなり、性行動を促進してしまうと考える人がいます。

⑪コスト どちらも高価です。ピルの年間コストとワクチンのコストはどちらも5万円程度と高価です。

⑫ビジネス言説 ピルとワクチンは医療関係者が推奨することが多く、
その言説がお金儲けのための言説と受け取られることがあります。

⑬途中で脱落 ピルは毎日継続的に服用することが必要だし、ワクチンは3回接種することが必要です。
ところが、途中で脱落するケースがかなり多いのも事実です。

⑭過敏反応 他のワクチンや他の薬品にもリスクはあります。
ピルや子宮頸がんワクチンは、それらと較べてリスクが大きいとか大きなリスクが予見されるわけではありません。
しかし、ピルや子宮頸がんワクチンについては何故かリスクについて過敏です。

⑮安心心理 予期しない(望まない)妊娠も子宮頸がん罹患も確率的には高いとは言えず、
自分は大丈夫と思いやすいものです。


ピルと子宮頸がんワクチンの相違点

①公衆衛生上のメリット 子宮頸がんワクチンには公衆衛生上のメリット(社会全体の感染を減らす)があります。
ピルにはそのようなメリットはありません。

②未解明の副作用 ピルの副作用リスクはほぼ解明されているのに対して、
子宮頸がんワクチンには未解明の副作用リスクがある可能性は否定できません。

③効果の検証 ピルの効果は十分に検証されているのに対して、
子宮頸がんワクチンの効果は十分検証されているとは言えません。

④リスクの度合い ピルの回避する妊娠リスクと較べて、子宮頸がんリスクは頻度的には格段に少ないけれども、
死亡する事もありリスクの程度は重いと言えます。

⑤親の意思 ピルの服用を決めるのは服用者本人ですが、
子宮頸がんワクチンの服用では親の意思が多分に影響します。

⑥公費助成 ピルのコストは本人負担ですが、
子宮頸がんワクチンには公費助成があります。

⑦経験者の発言 子宮頸がん経験者は積極的に発言する傾向があるのに対して、
予期しない(望まない)妊娠の経験者が積極的に発言することは稀です。

⑧副作用を煽る情報 根拠なく副作用を煽る情報は、
子宮頸がんワクチンの方がピルより多いでしょう。

⑨医療関係者 医療関係者の認識は子宮頸がんワ
クチンでブレが小さく、
ピルでブレが大きい傾向があるように思えます。


ピルと子宮頸がんワクチンの阻害要因
子宮頸がんワクチンの接種率は60%を越えたのに対して、
ピルの普及率は2%程度です。
子宮頸がんワクチンの接種率60%は、
必ずしも高い数字とは言えません。
何がピルと子宮頸がんワクチンの阻害要因になっているのか考えてみました。

①医療情報の不備
「発言小町」で子宮頸がんワクチンに対する消極的意見を見てみると、実は「打たない」理由になっていないものも多く見られます。
たとえば、「全ての型のウイルスに有効ではないのに副作用リスクが心配だ」という意見があります。
このような意見は、「無知」な人の意見ではありません。平均以上によく知っている人の意見です。
詳しく知りたい人の情報需要に応じる情報提供になっていないのではないでしょうか。
私なら、以下のような情報提供をします。

現在、年間約12000人が子宮頸がんを発症し、3500人が死亡しています。
その内、HPV(16型と18型)による子宮頸がんは約6割です。

仮に全員が子宮頸がんワクチン(16型と18型に有効)を接種すると、
発症者は年間約4800人少なくなり、死亡者は年間約1400人減少すると期待できます。

子宮頸がんワクチンには、未知の副作用があるかもしれません。
もし、ワクチンにより年間4800人以上に重篤な副作用が生じ、
年間1400人以上の副作用死亡者が出るとします。
その場合、史上最大規模の薬害事件となり、
メリットよりもデメリットの方が大きかったことなります。
ワクチンの関連が疑われる死亡例は現在のところ世界で数例です。

なお、現在約25%の検診率が100%になると、
死亡者数を更に大幅に減らすことができます。
 


上は特段目新しいことを書いているわけではありません。
メリットとデメリットを率直に知らせて、
判断は患者自身に委ねる基本に則って書いてみただけです。
このような情報提供の形が取られれば、
子宮頸がんワクチンに未知の副作用があったとしても、
メリットの方が格段に大きいと判断する人が増えるのではないでしょうか。
ちなみに、子宮頸がんワクチン推進の代表的なサイト。
子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp
しきゅうのお知らせ 子宮頸がん基礎知識
同じ事は、ピルの情報についても言えます。

②医療不信
発言小町の意見表明を見ていくと、
医療不信の影が色濃いことに気づきます。
これは上の①で述べた情報提供の形とも関係しています。
医療情報の提供と意見表明は異なります。
医療系サイトは医療情報を提供しているつもりなのでしょうが、
往々にして意見表明になっています。
判断するのはユーザーとの姿勢が徹底していないからです。
本来、ユーザーにとって不利益となる情報は最大限に記載すべきなのです。
ところが、不利益情報については簡単にしか書かなかったり、
場合によっては不利益情報の否定に力を入れています。
そのような情報提供の形が医療不信を醸成します。
日本人は知的レベルの高い国民です。
客観的な情報を提供することに徹底すれば、
国民は正しく判断するでしょう。
ところが、馬鹿な国民に正しい情報を教えてあげるという姿勢が見え隠れします。
日本のインフォームドコンセントが、
選択を委ねる形になっていない事とも関係しているでしょう。
ピルについてこの傾向はさらに顕著です。
恥ずかしくなるようなバラ色のピル説明はざらにあります。

③動機付け
不十分さを持つ情報の中で6割の人が、
子宮頸がんワクチンを受け入れています。
それは動機付けが明瞭だからです。
子宮頸がんに罹患する確率は低くても可能性は排除できない、
罹患すれば死亡のリスクまで生じる、
ワクチンは罹患のリスクを低減する。
ここには明確な動機付けがあります。
そして、子宮頸がん経験者の声がこの動機付けを強化しています。
その結果が6割の人々の受容に結びついています。
ピルの普及している国では、
上記と同じ動機付けが作用しています。
ところが、日本のピルはこの動機付けが不明瞭になっています。
ピルは性感染症を防げない不完全避妊法であるとされる一方で、
生理痛の緩和効果などが強調されます。
その結果が普及率の停滞となっていると考えています。

④価格
子宮頸がんワクチンの接種率は全体で6割ですが、
ばらつきも大きくなっています。
子宮頸がんワクチン接種率6割超え 受診率ばらつきも
上記の記事では、自治体による補助率がばらつきの要因だと指摘しています。
日本のピルのコストは高すぎです。
ピルの高いコストがピルの普及の阻害要因になっています。

※アンケートはワクチン反対派の方が作成したものの借り物です。
(正)接種(誤)摂取
当ブログにアンケート設置時点(2013.2.13) 42件(11.9%) 31件(8.8%)268件(75.7%) 13件(3.7%)