2014年3月6日木曜日

35歳からのピル(「プレ更年期」のピル療法について)

ピルについてのWHOガイドラインでは、
喫煙や血圧などの条件がクリアされれば35歳以上でもピルの服用ができることになっています。
日本のガイドラインも同様です。
35歳以上でもピルの服用ができます。
もう一度書きます。
35歳以上でもピルの服用ができます。
なぜ繰り返し書いたのかというと、
この日本語がわからない人がいるからです。
「35歳以上でもピルの服用ができる」は、
35歳以上の年齢でピルの服用が好ましいという意味ではありません。
「20歳を過ぎれば喫煙することができる」は、
20歳を過ぎたら喫煙することが好ましいを意味しません。
当たり前ですね。
ところが「35歳以上でもピルの服用ができる」を逆手にとって、
35歳を過ぎたらピルを服用しようとする言説が蔓延っているのです。
とんでもないことです。

35歳以上のピルが否定されない理由


35歳を過ぎると血栓症リスクが加速度的に上昇します。
それでも、「35歳以上でもピルの服用ができる」としているのです。
なぜでしょう?
35歳以上でのピル服用について英語で書かれたサイトを10個探して読んでみて下さい。
一つの例外もなく、閉経までは妊娠リスクがあるので避妊が重要と強調し、
その文脈で「35歳以上でもピルの服用ができる」と書かれているはずです。
100のサイト、1000のサイトを探しても、一つの例外もないはずです。
海外ではピルは避妊薬ですから、
当然避妊に関して書かれるのです。
その背景には、妊娠のリスク、妊娠に伴う血栓症リスクの上昇に較べると、
ピルによる血栓症リスクは小さいとの認識があります。

35歳以上のピル服用リスクについて説明すること


避妊はきわめて個人的なことです。
お寿司にするかカレーにするかが個人的なことであるのと同様に、
避妊法の選択は個人的なことです。
だから「あなたはカレーにしなさい」など、
誰も指示しません。
避妊法についても同じで、
「あなたは○○にしなさい」など誰も指示しません。
医療者も指示しません。
指示はしませんが、必要な情報を伝えるのは医療者の使命です。
「35歳以上でもピルの服用ができる」は、
ピルを推奨するわけではなく、
リスクを説明した上で選択肢として提示するという意味です。
ピルが避妊薬である時、医療者は副作用のリスクについての情報をきちんと説明します。

35歳以上ではピルによる避妊が半減


下の図はフランス人の避妊法についての調査です。


詳しくは脱ピルと卒ピル参照

34歳まではピルによる避妊が過半数を超えています。
(ピルのみとピル+コンドームの合計)
しかし、35歳以上の年齢層では年を重ねる毎に減少し、
45-49歳では半減しています。
35歳以上のピルによる避妊には、
ミニピルも含まれています。
リスクの説明がきちんとなされているから、
ピルによる避妊が回避されているのです。

ライフデザインドラッグとしてのピル


日本では2004年にライフデザインドラッグ政策が採用され、
以来脱避妊薬路線が推進されました。
ライフデザインドラッグとしてのピルは、
2つの特徴を持っていました。
1つは年齢横断性です。
ライフデザインドラッグ路線では、
思春期から閉経期までの全年齢の女性に対してピルは役立つとします。
年齢によるリスクを考慮すれば、
ライフデザインドラッグとしてのピルは成り立ちませんから、
年齢リスクが警告されることはありませんでした。
2つは非選択性です。
ピルが避妊薬であるとき、ピルの選択は個人の選択に委ねられます。
避妊の切実度は個人によって違いますし、
性交渉の頻度も個人によって違います。
上の図を見るとピルは20-24歳の年齢階層がピークで、
その後は下降していきます。
避妊法が選択されるものであるとき、
ピルを選択する年齢層が異なってくるのです。
ところが、ライフデザインドラッグでは、
ピルはそれぞれの年齢層で有用な薬と位置づけられます。
個人的な選択の薬ではなくなります。
「いつでもピル、みんなのピル」が、
ライフデザインドラッグのピルです。

「プレ更年期」言説に見るピル


ライフデザインドラッグのピルが、年齢横断性・非選択性という2つの特徴を持つと書きました。
ライフデザインドラッグ路線の特徴を端的に示しているのが、
「プレ更年期」言説です。
対馬ルリ子医師は「プレ更年期」にピルを活用することを唱道した医師です。
その考えは、こちらに端的に示されています。
「プレ更年期」は、35歳から45歳とされます。
そして、この年齢期にピルを積極的に服用することが推奨されています。
本来はリスクを警告すべき年齢の女性に、
逆にピルの服用が推奨されているのです。
「プレ更年期」のピルは更年期の不調に備える、
という位置づけがなされています。
まさに、「いつでもピル、みんなのピル」なのです。
ピルがこのように位置づけられると、
リスクを上回るメリットがあるかどうかという指標は意味を持ちません。
ピルの副作用は都市伝説と一蹴することによってしか、
ライフデザインドラッグ路線のピルは成り立たないのです。
もっとも有力な産婦人科医の一人が唱道した「プレ更年期」にピルの言説は、
広く流布することになりました。
オールアバウトにも同趣旨の記事が見られます。


ピルユーザーの過半数は30歳以上


ピルが切実な避妊要求に応える避妊薬であるとき、
ピルユーザーのピークは20歳代(前半)となります。
避妊薬としてのピルはそのような薬なのです。
20歳代(前半)までの女性には未婚の女性も多くいます。
日本では長い間ピルが認可されませんでした。
その背景には「ふしだら少女に避妊手段を与えてしまう」、
とするおじさま方の心配がありました。
ピルが認可されてから後も、
若者がピルにアクセスしにくくする障壁を作りました。
その延長線上にあるのが、
ピルを避妊薬でなくしてしまうという脱避妊薬路線です。
避妊薬であるよりライフデザインドラッグであるピルは、
当然のことながら年齢の高い女性の間に普及しました。
当ブログのアンケートによれば、
ピルユーザーの年齢分布は以下の通りです(2014.3.5現在)。
10歳代28人4.29%、
20歳代233人35.68%、
30歳代250人36.28%、
40歳代140人21.44%
30歳以上が57.7%を占めています。
「プレ更年期にピル」は現実を動かす言説になってきました。

30歳オーバーのピルデビュー


WHOのガイドラインが「35歳以上でもピルの服用ができる」としていること、
そして実際に各国には35歳を超えたピルユーザーがいることを書きました。
そうです、確かにどの国にも一定数の35歳を超えたピルユーザーがいます。
ただ、それは日本の35歳を超えたピルユーザーとはわけが違います。
日本以外の国では、ピルは若者を中心に利用されている避妊薬です。
35歳になると、ピルをこのまま続けるか検討するのです。
そして、ピルを止めるユーザーもいますし、ピルを続けるユーザーもいます。
「35歳以上でもピルの服用ができる」は、ニュアンスとしては35歳を超えてもピルを【継続】できるに限りなく近いものです。
これを言い換えると、35歳を過ぎてピルデビューするユーザーなど、
ほぼ皆無です。
「35歳以上でもピルの服用ができる」は、
5年、10年、15年とピルを使用してきたユーザーについて言っているものです。
若いときからピルユーザーであり続けた女性は、
血栓症になりやすい体質でないことが証明済みです。
また、ピルの血栓症はピルを飲み始めた最初の1年に集中する傾向があります。
数年間服用を続けているユーザーでは、リスクは低くなります。
このようなユーザーを前提に「35歳以上でもピルの服用ができる」とされているのです。
このような事情を考慮せずに、
WHOのガイドラインが「35歳以上でもピルの服用ができる」としているから、
35歳を過ぎてピルデビューしてもかまわないとするのは乱暴すぎます。


斬新な【実験】


「プレ更年期にピル」は斬新なアイデアを実証する【実験】であったと考えられます。
1つ目の【実験】は、35歳を過ぎたピルデビューで血栓症発現率はどのようになるかの【実験】です。
とてつもなく高い発現率になるのではないかとの想像はできても、
実際に【実験】が行われたことはありません。
この【実験】はすでに結論が出ていますので、中止してもよいのではないかと思います。
600人に1人が血栓症に--40歳以上のピル服用について試算などを参照のこと。

2つ目の【実験】は、「プレ更年期」のピル服用が更年期に与える影響の【実験】です。
「プレ更年期」のピル服用が、更年期に好影響を与えるとの仮説が述べられています。
「プレ更年期のうちからホルモンケアをしていると、次に続く更年期も上手に乗り切ることができます」
これはあくまで仮説であって、何らのエビデンスもありませんでした。
あるいは私が知らないだけなのかもしれませんが、
少なくともメジャーな雑誌にはそのような知見は報告されていません。
きっと世界から注目される論文になるでしょう。
※なお、ヘルシンキ宣言を逸脱する研究はどのように優れた研究であっても、
受理されることはありません。

35歳超でもピルが選択できる国


私はピルの副作用被害をなくすための10の提言で、
「35歳以上の女性に対する混合ピルの新規処方を停止する」ことを提唱しました。
実はこの提言は私の主義に反しています。
この提言では処方するかしないかを医師が決定することになっており、
医師が処方しないと決めれば女性の選択権が失われます。
かなり悩みましたがこの1項目を入れることにしました。
現実に生じている副作用をストップする緊急的措置が必要と考えたのが、
大きな理由です。
もう一つ理由があります。
欧米では35歳を過ぎても混合ピルを服用し続ける女性がいます。
そして、その中のかなりの女性が治療目的を兼ねたユーザーです。
そのような女性の一人が話してくれたことがあります。
「このピルを飲み始めたのは19の時だったわ。
かれこれ20年同じピルを飲み続けてるの。
だから、20年間私の身体のホルモンは同じって事よね?
これから10年飲み続けるつもりだけど、
ホルモン状態は19の時と変わらないわ。
ドクターはリスクが高くなるって言うけど、
私について当てはまらないでしょ?」
彼女は自信たっぷりに話しましたが、
実はやはりリスクは高くなります。
しかし、彼女の場合確かにメリットを上回るリスクがあるとは言えません。
ピルが若者の避妊薬として普及している国では、
ピルと長くつきあうことも可能になります。
35歳を過ぎても安全にピルが使える国にするには、
35歳以上の新規処方を停止する方が近道ではないかと考えました。


誰もがいつでも安心して利用できるピルに


ピルが避妊薬であるとき、ピルは女性が選択する薬です。
ピルが治療薬であるとき、ピルは医師が奨める薬です。
ピルが女性の選択する薬であるとき、医師はリスクを丁寧に説明します。
ピルが医師の推奨する薬であるとき、医師はリスクを説明しないか過少に説明します。
1970年を境に、世界のピルは医師がリスクを説明し、
女性が選択する薬に大きく変わりました。
日本のピルは、依然として1970年以前のピルなのです。
発足当初の性と健康を考える女性専門家の会にとってピルは避妊薬でした。
ピルが避妊薬であるとき、性と健康を考える女性専門家の会の理念はすばらしいものでした。
「性と健康を考える女性専門家の会」の理念を賞賛する 参照
興味深いことにライフデザインドラッグ路線にどっぷり関与してきたのは、
同会メンバーです。
対馬ルリ子医師も同会の有力メンバーです。
「プレ更年期にピル」の言説と同会の理念は齟齬しないのか?
同会にはこの点をしっかり考えてほしい気持ちです。
同会のためにも、日本の医療のためにも、そして何よりも日本の女性のために。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

日本はピルに冷たい国なのかと思っていましたが、この記事を読んで、日本は35歳過ぎてもピルデビューできる稀有な国なのだと知りました。
私は、若い頃に混合ピルを飲んでいたらもっと幸せだったかもしれませんが、プレ更年期になっていっそう排卵の負担は深刻になったので、ピルなしには生きていけません。私のように、中年になって排卵の負担が増した物にとって、43歳での混合ピルデビューは救いであり僥倖であります。
中年の混合ピル服用の危険性を訴えたり啓蒙したりしていくことは誠に結構ではあります。リスクを承知の上で個人が決めれば良いからです。
そんなわけで、下記のような提唱は非常に迷惑なので、やめていただきたい。

>私はピルの副作用被害をなくすための10の提言で、
「35歳以上の女性に対する混合ピルの新規処方を停止する」ことを提唱しました

それは私のような患者に、「死ね、いや、生物としては生きていてもいいから、使用済みの「産む機械」として余生を過ごせ、人間であることをやめろ」と言っているも同然です。

もっと女性ホルモンのことを勉強して下さい。チンパンジーやゴリラと比べて人間の女性ホルモンは改良されていますが、必ずしもうまく機能している人ばかりではありません。特に、排卵を繰り返して中年になると一層です。となると、妊娠出産に特化したサル並みの体になるので、人間らしい生活は無理です。私は混合ピル服用で中年ザルから人間の中年へと昇格しました。
中年の混合ピルデビューは大切です。

Unknown さんのコメント...

現在、40歳以上への処方は相対禁忌となっています。
当ブログの年齢別血栓症発症率試算はご覧頂いたと思います。
恐らく実際はもっと高いと思いますが、
試算の数値でも絶対禁忌指定は避けられない数値です。
現在絶対禁忌になっているどの項目よりもリスクが高いわけですから。
禁忌指定に際しては、代替薬の有無が考慮されます。
混合ピルについては、黄体ホルモン単味剤の代替薬があります。
「ミニピルNOW」もご覧下さい。
http://finedayspill.blogspot.jp/2014/03/now.html
なお、高年齢女性の血栓症発症の現実を産婦人科医が知れば、
絶対禁忌指定がなされなくても、
ほとんどの産婦人科医は処方をためらい、あるいは処方を中止するでしょう。
現在のような高年齢女性への安易な処方を続けることは、
副作用に苦しむ女性をいたずらに増やすだけだと思います。
また、「ピルは怖い薬」との印象を広め、日本におけるピル利用を妨害することになると考えます。
ミニピルではダメな理由が示されていませんが、
ほとんどのケースではミニピルで対応できます。
混合ピルでなくてはならない理由は何なのでしょうか?

匿名 さんのコメント...

ミニピルってエストロゲンが入ってないやつですよね。
私の場合はエストロゲン摂取が目的なので混合ピルに限ります。
排卵後はエストロゲンがほとんど分泌されなくなる体質で、その時期プロゲステロン オンリーになることがことががどんなに辛いのか、否、生物としては生きていても人間として死んでいるも同然であることは、体験した人にしか分からないでしょう。
そのような思いをするよりは、血栓症で死んだ方がマシです。
いずれ閉経してしまえば、プロゲステロンが分泌されることもなくなってラクになるでしょうが、プロゲステロンがある間は、エストロゲンもないと辛いです。
ミニピルを飲んだら、排卵こそなくなるものの、プロゲステロンは摂取ししまうわけですから、エストロゲンゼロはきついです。
誤解のないように繰り返しますが、血栓症のリスクがあること、特にある年齢以上ではリスクがうんと増大することについて、啓蒙するのは良いことだと思います。しかし、中年からピルという選択肢を奪うのはやめて下さい。
もっとホルモンのことを勉強して下さい。

匿名 さんのコメント...

横からすみません。

>>中年の混合ピルデビューは大切です

そう思われる方がいるのも現実だと思います。
が、現状の日本では、たくさんの中年女性が副作用に苦しみ死者まで出てる・・これも現実です。

>>それは私のような患者に、「死ね、いや、生物としては生きていてもいいから、使用済みの「産む機械」として余生を過ごせ、人間であることをやめろ」と言っているも同然です。

それは、湾曲しすぎな捉え方ではないでしょうか。
rurikoさんのサイトなりツイッターなりを読んでいたら、そんなことを言ってないのがわかるはず・・です。
過度な賛成反対をしない、中立な立場でいらっしゃるのがわかると思うのですが。

rurikoさんがおっしゃるとおり、ピルは頭で飲む薬だと思います。
頭で飲むからには、冷静に中立にピルを理解しなきゃならないと思います。