2013年1月30日水曜日

減少に転じた?ピル普及率

ばらつきが大きすぎるピル普及率データ
オーキッドクラブが20~30代の女性400名に行った調査では、ピルの普及率は5.5%</a>でした。
首都圏の男女1000人を対象とした「SOD Sex survey 2012」では、ピルの普及率は8%でした。
おそらく、サンプルの偏りのために高めの数値になっていると思います。
「第6回男女の生活と意識に関する調査」は、16~49歳の男女3,000人を対象としたもので規模も大きくもっとも信頼できる調査ですが、直近のピル普及率は1.9%となっています。(ネット上に未公表/一部結果)
「男女の生活と意識に関する調査」は2002年から2012年まで偶数年に6回の調査が行われました。
各回調査のピル普及率は以下の通りです。
①1.6
②1.9
③1.8
④3.0
⑤2.3
⑥1.9

 
2012年調査では2004年第②回調査のレベルまで普及率が後退しています。
ピルの普及が伸び悩んでいるとの実感と符合する結果です。

岩盤の70%
これまで6回の「男女の生活と意識に関する調査」で注目しているのは、
ピルを「使いたくない」と回答する女性が一貫して70%強存在することです。
この70%強の女性について、
いわゆる「ピル推進派」は無知で偏見を持った70%と考えているように見えます。
だから、「正しい知識」を啓発することに熱心になります。
しかし、10年間啓発活動を続けても70%はびくともしません。
なぜでしょう。
「無知で偏見を持った70%」という認識自体が間違っているのではないかと私は考えます。
70%の女性と30%の女性では、
70%の女性の方がピルについての知識は乏しいでしょう。
しかし、ピルを普及すると活動しているNPOのメンバーがトンデモ情報を連発しているのを見ればわかるように、
両者の知識差は決定的なものではありません。
ピルについての知識差が70%の女性と30%の女性の区別になっているとは思えないのです。
「無知で偏見を持った70%」が微動だにしないのは、
実は彼女たちの方が主体的選択をしている女性だからだと考えます。
彼女たちの特徴は直観的な冷めた判断です。
これを別の言い方で言うと、
宣伝臭にはとても敏感であるとともに、
自らの体験に基づいて判断しようとします。
いくつか例えを上げてみましょう。

例1
「ピルの避妊効果はほぼ100%です。
コンドームの避妊は失敗が多いので、
避妊具と言うよりSTD予防具です。」
このような言説に対する反応は、
「これまでコンドームで別に不都合はなかったし、
ピルだって飲み忘れとかで妊娠すると聞いているのに、
良いことばかり言っているみたい。」

例2
「ピルを飲むと生理は軽くなるし、
卵巣がんや子宮体がんを予防する効果もあります」
このような言説に対する反応は、
「薬だから良い点もあるかもしれないけど、
良い点だけ言われても。
副作用だってあるかもしれないから、
ひとまずはパスしとこう。」

例3
「ピルで乳癌リスクが高くなることはありませんし、
ピルで肥るというのは神話です。」
このような言説に対する反応は、
「以前はピルで乳癌リスクが高くなると言っていたはずなのに、
今になってそんなこと言われてもなぁ。
それに医師の中でも意見が分かれているみたいだし。
ネットにはピルで肥ったとか痩せにくくなるとか言う話がたくさんあるのはなぜなんだろう?」

以上3つの例を挙げましたが、
70%の女性は「無知で偏見を持った70%」ではなく、
主体的に判断しようとする女性なのです。

避妊、避妊、そして避妊
「ピルで血栓症リスクが高まる!」
「ピルを服用すると肥る!」
「ピルは乳癌になりやすくする!」
ピルの歴史はこのようなネガティブ情報の波を跳ね返してきた歴史です。
このネガティブ情報を跳ね返してきた力は、
ただ一つです。
<strong>「確実な避妊をしたい!」</strong>でした。
「ピルで血栓症リスクが高まるってどの程度? だったら、私は確実な避妊をしたい!」
「ピルを服用すると肥るってどの程度? だったら、私は確実な避妊をしたい!」
「ピルは乳癌になりやすくするってどの程度? だったら、私は確実な避妊をしたい!」
ピルの服用を選択する女性の主体的判断に、
誰も口を挟むことはできませんでした。
「確実な避妊をしたい」との切実な思いに対して、
しっかり応えようとしてきたのがピルの歴史です。
1970年代の日本でピルが爆発的に普及したと書きました。こちら
青森県のある地方ではピルが驚くほど普及し定着しています。
卵巣がんが減少すると訴えたからではありません。
「確実な避妊をしよう!」という訴えと「確実な避妊をしたい!」という思いが重なったからです。
これはどこの国でも同じ事なので、
ピルが副効果のために普及した国はないと書いてきました。
日本のピルの13年間は、「確実な避妊をしたい!」との思いを持つ女性に訴えるものではありませんでした。
13年間妊娠リスクを高める服用法を放置してきました。
日本のピルの普及が低迷するのは、
ある意味当然のことのように思えます。

大学入学者は女性がんリスクが高くなるかもしれないという話

最初に断っておきますが、大学に入学したとしても乳がんや子宮頸がんのリスクが高まるわけではありません。
そんなことは当たり前のことなので、
誰も調査しませんし調査もありません。
しかし、実際に調査してみると、
大学に入学すると女性がんリスクが高まるという結果が出ないとは限らないのです。
例えば、大学入学経験者と非経験者の乳がんリスクについて調べたとします。
すると、大学入学経験者と非経験者の乳がんリスクに差がないことがわかるでしょう。
しかし、大学入学経験者の20年経過時点の乳がんリスクを調べると、
大学入学経験者の乳がんリスクが高くなるかもしれません。
ええっ!!と思われるでしょうが、
そのような結果が出ないとは限らないのです。
なぜかというと、大学入学経験者の20年経過時点というのは、
38歳前後に集中しています。
もし38歳前後が乳がんの好発年齢だとすると、
大学入学経験者は20年経過時点で乳がんリスクが高くなるように見えます。
以上は、ざっくりした例えですが、
そのような視点でピルと発がんリスクの関係を見てみましょう。
以下は、ピルと乳がんの関係について説明したページです。
まず表の見方を説明しましょう。
死亡を例に取ると、
「相対リスク(95%CI) 」が0.90(0.74-1.08)となっています。
ピルユーザーと非ユーザーのリスクが同じであれば、
1.0ですが0.90となっているので、
ピルユーザーの方が死亡リスクが低いというデータです。
しかし、カッコの中を見ると(0.74-1.08)となっています。
数値が1.00を挟んでいます。
1.00を挟む場合には統計的に有意とはいいきれないことになります。
これが表の見方です。
統計的に有意なデータは太字で示しています。
ピルユーザーと非ユーザーを較べると、
乳がんリスクに差は見られません。
しかし、ピル服用経過が15-20年の女性だけに限ってみると、
2.45倍乳がんリスクが高くなります。
逆に20年以上経過するとピルユーザーの乳がんリスクは半分程度に低下します。
このような奇妙な結果になるのは、
ピルユーザーの服用開始年齢が一定年齢に集中しているからではないかと想像しています。
ピルの服用開始年齢は似通っているので、
ピル服用経過年数は年齢層と重なっている可能性があります。
ピルユーザーは、ピル服用経過15-20年で乳がんリスクが高くなるのではなく、
ピル服用経過15-20年で乳がん好発年齢に達しているのではないかとの想像です。
このように想像すると、大学入学経験者の入学20年経過後の乳がんリスクは高い、
などと言うデータが得られるかもしれません。
なお、日本乳癌学会は一貫してピルが乳癌リスクを高めるとの見解を表明しています。
それを受けて、
「このガイドラインがある以上は、正統派の乳腺診療を行う医師はピルを安易にピルの使用を認める事はありません」
(ベルーガクリニック)となるのですが・・・。

ピルと乳癌の関係については、肯定否定両論があります。
意地悪い見方をすると、業界のバイアスが関係しているようにも思えます。
それはさておき、次ぎに子宮頸がんリスクについて見てみましょう。
子宮頸がんリスクについての説明ページはこちらです。
まず、子宮頸がんリスクの表をご覧下さい。
乳癌リスクの表と非常に似たパターンなのがわかります。
つまり、死亡や罹患で見ると有意な差はないのに、
経過年数でグルーピングすると有意な差が生じています。
これも上の乳癌リスクについての説明で述べた年齢グルーピング効果が関係しているように思えます。
しかし、乳癌リスクとの違いも見られます。
子宮頸がんリスクでは統計的に有意でなくても、
有意に近い95%CIで相対リスクが高くなっています。
この点について考えてみましょう。
表ではピルユーザーと非ピルユーザーの相対リスクを較べているのですが、
非ピルユーザーの中には異性間性行為のない人も含まれます。
このことがピルユーザーの子宮頸がんリスクを高めに見せているように思えます。
もし、コンドームユーザーと非コンドームユーザーを較べてみても、
同じような傾向が現れるかもしれません。
ピルユーザーにコンドーム使用を強力に推奨する文脈の中で、
ピルユーザーの子宮頸がんリスクが高くなるとの言説が横行しています。
コンドームの使用で子宮頸がんリスクが低下するとのデータは見たことがありませんが、
もし最大限の予防効果があるとしても10万人中15.48人の罹患が11.19人に低下する程度です。
コンドームで子宮頸がんリスクを予防できるかのような幻想を振りまくよりも、
HPV予防ワクチンや定期検診の普及に取り組んだ方が現実的であるか、と思うのですがいかがでしょうか。

2013年1月28日月曜日

【拡散希望】ピルユーザーを妊娠させるTWに注意。説明→

ピルユーザーが妊娠してしまう悲劇を減らすためにご協力願います。
ピルユーザーを妊娠させるTWに注意の説明
①ピルは飲み忘れがあると避妊に失敗します(年率9%)。
②飲み忘れ前の服用錠数が少ないほど妊娠リスクは高くなります。
飲み忘れ錠数が多いほど妊娠リスクは高くなります。
④飲み忘れ前の服用常数が少なく(1週目)飲み忘れ錠数が多いとき(3錠以上)は、
緊急避妊が必要です(「緊急避妊適正使用指針」)。
⑤2錠の飲み忘れで服用を中止すると、翌日には3錠の飲み忘れと同じになり、
翌々日には4錠の飲み忘れと同じになり、
飲み忘れ錠数が多い状態になり妊娠リスクが高まります。
⑥妊娠リスクを高めないためには、服用を中止してはいけません(3週を除く)。
⑦ツイッターアカウント@OC_Pillから流される服用中止を促すtwを信じないで下さい。

「ピルの飲み忘れ。2日以上過ぎてしまったら、いったん中止しましょう。一度に3錠飲むのは意味がありません。」
⑧ツイート元のサイトは危険な服用法を推奨した前科がありますが、
現在は「ユーザーに有利な情報をお知らせしています」として危険情報を更新済みです。
⑨ツイート元のアカウントは前科があるのにtwitterでは危険な情報を確信犯的に流しています。
⑩同グルーブにより危険な服用法が推奨される背景については、
ピルは避妊薬でなかったのか」を参照。

2013年1月27日日曜日

ピルは避妊薬でなかったのか?

下の図はフランスの避妊法選択を示した調査だ。



一番左の15-17歳の年齢で見ると、 ピルだけの避妊が37.3%、ピル+コンドームが14.5%だ。
24歳以下ではピル+コンドームが一定比率を占めているのが分かるだろう。
ところが、25歳を過ぎるとピル+コンドームは激減していく。
これには2つ理由がある。 一つは25歳以下の年齢層には未婚女性が多く、
避妊に対する切実度が高いからだ。
二つ目の理由は25歳以下の年齢層ではパートナーが固定していない事が多いからだ。
相手が性感染症フリーと分からなければ、 コンドームを併用する。
パートナーが固定すると性感染症フリーをお互い確認するので、コンドームの併用が減少する。
きわめて合理的な選択行動が取られているのが分かるだろう。詳しくはこちらで。
フランスで若年層の約80%もがピルを選択するのは、 当たり前だがピルが避妊薬だからだ。
ところが、日本にはピルが避妊薬であることを必死で否定しているかのようなグループがある。
そのグループのツイートだ。

ピルは優れた避妊手段であるから単独で使用できる。
単独で使用するか、コンドームと併用するかは、 ケースバイケースでそれぞれの選択に委ねられることなのだ。
ところが、このグループはそれを真っ向から否定して、
「ピルはナマでするためのアイテムではありません」と断言しているのだ。
同グループはピルの避妊薬としての使用に水を差す一方で、
治療目的使用の普及にはことのほか熱心だ。
ピル解禁前の日本でピル反対派の考えは、 「治療薬としての利用には反対しないが避妊薬としての認可には反対」 だった。
それを「治療薬としての利用は推進するが避妊薬としての利用には反対」と言い換えているかのようだ。
このような隠れピル反対派とも言える同グループの姿勢は、 アンチフェミニズム勢力に支持されている。
たとえば、中迎聡氏だ。 同氏は、「子どもが生まれたら家庭を守る専業主婦になる都市部のサラリーマン妻」が 「女性にとって生きやすい社会」なのだという。(「日本は女性差別国家か?」)
この同氏のピルについての支離滅裂な論理はこちら
この中迎聡氏は同グループの支持者だ。
もっとも、「ピルはナマでするためのアイテムではありません」は同グループの信条であり、
それ自体は思想の自由の範囲だ。
このグループの問題は自らの信条を広めるためなら、 デマでも偏見でも手段を選ばない点だ。
オーキッドクラブの調査によると「将来妊娠しづらくなる」との誤認が22.8%にも達した。
ピル=不妊の奇想天外な誤解を広めるのに貢献したのは、同グループだ。
同グループは古巣のmixiコミュで、 ピルのナマダシで不妊症になるとのキャンペーンを張ったのだ。
彼らの主張は、ピルを服用してナマダシすると抗精子抗体ができて不妊症の原因となるというものだ。
キャンペーンの名残が残っている。
妊娠を希望するなら「ナマダシ」は不可避だ。
抗精子抗体の予防などできるものではないのに、 ピルユーザーに抗精子抗体不妊の不安を煽ったのだ。
彼らのキャンペーンの成果はじんわり広まってしまった。
発言小町では常識的なレスがついているが、 ヤフー知恵袋では偏見の垂れ流しが続いている。
このキャンペーンには「ピル推進派」のある女医が関係していたし、
「ピル推進派」のある病院サイト掲示板でも垂れ流された。
さんざんトンデモ情報を流しながら、
「ネットは便利ですが、その情報は玉石混合。 身元不明な個人のサイトや情報源を併記していない情報は鵜呑みにしないよう注意しましょう。 #loc」
と強弁するのは詐欺師の台詞に似ている。
ピルユーザーに抗精子抗体不妊が多いなどと言うデータはどこにもないはずなのだが、
彼らは何を情報源にしてキャンペーンを張ったのだろうか。
彼らの自らの信条を広めるためには手段を選ばない反社会性は、
ピルユーザーの避妊失敗を誘導する言説にも現れている。

上品になんか、やっておれない!怒り怒り怒り

このブログ、格調高くとはいかなくても、 穏やかに語るブログにするつもりだったのだが、
早々に気が変わってしまった。
ピルは毎日決まった時間に服用する薬だ。
実際に服用してみると、 定時に服用することは想像以上にむつかしい。
誰でも必ず飲み忘れはある。
飲み忘れなどがなければ1年間あたりの妊娠指数PIは0.3と低いのだが、
実際の服用のPIは9にもなる。
下手に服用すればコンドームをきちんと使うよりも妊娠リスクは高いのだ。
いかに失敗を少なくするかは、 飲み忘れを少なくすることと効果的な飲み忘れ対応をすることにかかっている。
「ピルとのつきあい方」は最も慎重な飲み忘れ対応を紹介してきた。
飲み忘れが年に2度くらいまでなら、
慎重すぎるくらい慎重な対応でも別に不都合はない。
コンドームの避妊では不安だという女性がピルユーザーとなった。
だから、当サイトの慎重な服用法がピルユーザーに支持されたのだ。
ところが、これを苦々しく思うグループが2004年9月に生まれた。
現在はNPO法人OC普及推進事業団となっている。
このグループは当サイトを敵視し続け、 長年にわたり当サイトを中傷する言説を振りまいてきた。
言論は自由ではあるが、 ピルユーザーの避妊を失敗させる言説だけはどうしても許せない。
このグループの悪質さは、 当サイトの批判とトンデモ服用法の推奨がセットな点だ。
当サイトでは名指しで中傷されてきたので、 名指しで反論させていただいた。
この反論以後、NPOはトンデモ服用法を改変し、
当サイトへの名指しの中傷もしなくなった。

しかし、だ。

今年になって、NPOのツイッターアカウントが、
またまたトンデモ服用法の推奨と名指しではないが当サイトへの中傷を始めたのだ。

以前の「24時間」を「2日」としているが、内容的には同じだ。
ピルユーザーの飲み忘れによる避妊失敗は、 飲み忘れ以前に服用した錠数が少ないほどリスクが高く、 飲み忘れ日数が多いほどリスクが高い。
だから、緊急避妊のガイドラインは、 最もリスクの高い1週目の飲み忘れで3錠以上の飲み忘れの場合は緊急避妊が必要としている。
このNPOは2日(2錠)飲み忘れたら服用を中止せよと言う。
服用を中止すると、次の日には3錠の飲み忘れ状態になり、
その次の日には4錠の飲み忘れ状態となる。
妊娠リスクをわざわざ高くするトンデモ服用法なのだ。
こういうトンデモ服用法を垂れ流しながら、
「ネットは便利ですが、その情報は玉石混合。 身元不明な個人のサイトや情報源を併記していない情報は鵜呑みにしないよう注意しましょう。 #loc」
と当サイトを揶揄することも忘れない。
このNPOは「OC普及推進事業団」と名乗っているが、
その言説はコンドームを併用しない避妊ピルユーザーを撲滅し、
治療薬としてのピルの普及を図ろうとするもののように思える。
ピルユーザーが避妊に失敗し妊娠するよう誘導しているとしか言いようがない。
これを怒らずにはいられない。

2013年1月24日木曜日

5.間引きから避妊に至る過渡期の堕胎

間引きから避妊に至る過渡期の堕胎
江戸時代の間引きは社会の構造的矛盾によって生じたものでした。
その責任は誰にもありません。
個人的な問題ではないのです。
人類が直面した過剰人口という問題で、
もっとも悲しい思いを強いられたのは女性でした。
そして、なおかつその責任を押しつけられたのも女性でした。
間引きという野蛮な方法から女性を多少なりとも救うものが堕胎でした。
間引きの野蛮性を克服する技術が堕胎だったのです。
江戸時代には優れた堕胎剤が開発されたと考えています。
このことは別のエントリーで述べます。
堕胎の問題は、広範に間引きが行われていたという事実を抜きにして考えることはできません。
江戸時代の男女比が10対8であると書きました。
間引かれたのが全て女性と仮定しても、
産まれてきた子どもの10人に1人が間引かれていたのです。
このことは女性にとって耐え難い悲しみだったでしょう。
流産薬が普及する条件が江戸時代の日本にはありました。
堕胎は密かに行われます。
私たちが想像する以上に堕胎が広まっていたかもしれません。
堕胎は女性の心身に大きな負担となります。
しかし、間引きと較べると心身の負担はずっと軽減されたと思います。
それは女性にとって最悪ではない選択でした。
しかし、この進歩は別の仕打ちを生み出します。
間引きは多少なりとも男女の共同責任と考えられていました。
間引きと同様に堕胎も社会的必要だったにもかかわらず、
これを女性の責任とする考えが広まります。
間引きも堕胎も女性が好んで行ったものではありません。
にもかかわらず、女性の責任にされるようになったのです。
それが女性の責任とされた理由は明かです。
女性が産む性だからです。
産む性であるために、悲しみも責任も負うことになりました。
これは日本の女性だけの問題ではありません。
この問題を解決するには避妊しか方法はありませんでした。
避妊は数百年の間の女性の悲しみを救う技術でした。

4.福祉政策としての間引き防止政策

北陸の真宗地域では間引きの風習がなかったと言われます。
この点については更に検討が必要でしょう。
なぜなら、間引きは過剰人口という社会的矛盾の解決策だったからです。
もし、真宗地域で間引きが行われなかったのなら、
過剰人口の問題を抱えていたはずです。
しかし、真宗地域でもやはり人口の停滞は見られます。
真宗地域で間引きの習慣がなかったとすると、
もらい子などのシステムがあったのかもしれません。
間引きの一側面は貧富の格差で育てられない貧困層が生じていたことでしょう。
唐津藩ではビデオの中でも語られますが、
富の再分配システムを作り上げます。
唐津藩の間引き禁止政策が成功したのは、
この富の再分配政策に鍵があると思われます。
富の再分配政策は短期的には間引き防止の効果を発揮するでしょう。
しかし、間引きの根本的原因は、
土地の生産性に見合わない過剰人口の問題です。
したがって、富の再分配により間引きを防止し人口増加を実現できたとしても、
さらに過剰人口を抱えることになります。
唐津藩政策の中に福祉政策の導入という進歩的性格があったことは、
注目されなければなりませんが、
それが根本的解決策でなかったことも指摘しなくてはなりません。

3.堕胎罪のルーツ

江戸時代の人々は過剰人口に嬰児殺しや間引きで対応するしかありませんでした。
余りに悲しいことです。 江戸時代の間引きについてからつ塾の講義ビデオです。

1時間40分の長いビデオですが、 すばらしい講義内容です。
この講義の中で間引きが全国的に行われていたことや、 為政者が間引き禁止政策をとったことについて触れられています。
間引き禁止政策を唐津藩の事例で見ていく内容です。
間引き禁止政策は唐津藩だけでなく、 おそらく諸藩でも取られた政策であったと考えます。
江戸時代の間引き禁止政策として一般化できる側面があると思います。
しかし、唐津藩では間引き禁止政策により人口が増加していますが、
他藩では人口増加が基本的に見られません。
他藩が同じ間引き禁止政策を取っていたなら、 他藩でも人口増加が見られるはずですが、
そうはなっていません。
唐津藩の政策は特殊性を持っていたことも事実でしょう。
その特殊性は福祉政策的性格だと考えますが、
この点については別エントリーとします。
唐津藩の間引き禁止政策は、管理と罰則、教化、福祉政策の3本立てです。
いかに妊娠を細かく管理しようとしていたのかは、 ビデオの中で詳しく語られています。
間引きを行った産婦が処罰された話も出てきます。
このケースについて、女性が独断で間引きを行ったとして女性が処罰されたと説明されます。
ある意味で特殊な例のように聞こえました。
唐津藩の政策では、妊娠から出産に至るまでを報告する義務は当の女性にはありませんでした。
報告義務違反が処罰の主たる対象でした。
この点は明治の堕胎罪とは大きく異なる点です。
しかし、建前は当の女性を処罰対象にするものでなくても、
現実には女性が処罰されています。
女性が独断で間引きを行うことなどあり得なくても、
責任が女性に押しつけられることがあったのでしょう。
なぜ女性に責任が押しつけられるのかは明かです。
嬰児は産婦の管理下にあります。
嬰児が産婦の管理下にあることが、 女性だけの責任にされる大きな理由のように思えます。
そして、胎児は嬰児と比べものにならないほど、 女性の管理下にあります。
堕胎罪が女性の責任を問う枠組みができつつあったように思えます。

2.嬰児殺しと間引き

東北のこけし人形は「子消し」に由来するといわれます。
こけし人形が「子消し」に由来するとする説も相まって、
東北地方は「嬰児殺し/間引き常習地域」と考えられる事があります。
しかし、東北地方と嬰児殺し/間引きを重ねて考えるのは、
根拠が薄いのではないかと考えます。
人口調整としての嬰児殺しは、自然淘汰力の克服によって生じました。
避妊技術が生まれる歴史的必然性参照
自然淘汰力が大きければ嬰児殺しは生じません。
疫病や自然災害は、自然淘汰力の最たるものです。
自然淘汰力により人口が失われると、
過剰人口どころか過少人口になります。
自然災害(飢饉)によるダメージの大きかった東北地方で、
他の地方よりも過剰人口が生じていたとは考えにくいのではないでしょうか。
このように考える時、嬰児殺しと間引きは別物と考える方が合理的です。
江戸時代の人口構成は、全国的に男10に対して女8でした。
これは嬰児殺しが全国的に常習化していたことを示しています。
嬰児殺しは東北地方に限ったことではなかったと考えられます。
東北地方でも嬰児殺しはあったでしょうが、
東北地方の特殊性は幼児殺しだったかもしれません。
餓死者が出る飢饉の中で、
幼児が犠牲となりその悲しみを癒すために「こけし人形」が作られたのかもしれません。
こけし人形は決まって女の子です。
嬰児殺し、間引きの犠牲者は女の子でした。

1.避妊技術が生まれる歴史的必然性

人間は自然界に生息するヒトという生物です。
ヒトという生物の個体数(人口)は、食料によって規定されてきました。
1反の田があると1石の米が穫れ1人の人口が養われるという関係です。
土地が一定であれば、土地が養う事のできる人口も原則的に一定となります。
ヒトも他の生物同様に過剰増殖(出産)の潜在的リスクを持っていました。
しかし、人類の長い歴史の中で、過剰増殖が問題になるのは比較的新しい時代の事のように思えます。
それにはいくつかの理由が関係していたでしょう。
一つには自然淘汰力が大きく作用していたからです。
たとえば、疾病はヒトの増殖を強力に抑制していました。
特に乳幼児の死亡率は考えられないほど高いものだったでしょう。
二つ目に、耕地の拡大や食料生産技術の向上は、
人口増加圧力を吸収していました。
しかし、自然淘汰力をコントロールする技術(医学など)が進歩し、
耕地の開発が限界に達すると、
過剰増殖という問題に直面する事になりました。
この問題に対する最初の対策が間引きでした。
間引きという暴力的な対応。
この暴力的な対応をいかに克服するかは、
人類的な課題となったのです。
日本で過剰人口が問題となるのは、18世紀頃の事です。
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